恋愛成就のタツノオトシゴ

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碓水の名前は、修学旅行に行った都道府県の欄にあった。名前の後ろに学校名が書かれていた。水莉の知らない学校だったが、男子校と書かれているので、学校名でいいのだろう。 「すごいね。碓水君」 リレーの補欠となっているが、補欠でも代表になれるだけの実力を持っている。 それだけでも、凄いと思う。 ゲーム以外、何も取り柄がない水莉からすれば。 「この碓水が水莉が言っていた碓水と同じかはわからないけど」 「きっと同じ人だと思う。ありがとう、エリちゃん。教えてくれて」 壁に寄りかかりながら、水莉を眺めていたエリはフッと笑う。 「全国大会に、水莉も一緒に行く?」 「行ってもいいの!?」 「自費になるだろうけど、それでも良ければ一緒に行こうか」 大会が行われるのは、雪が溶ける三月。 今から数ヶ月も先だった。 「それまで待てる?」 「待つよ! 碓水君に会えるなら待てる!」 いつになくやる気な様子を見せたからか、エリは吹き出したのだった。 「エリちゃん?」 「ごめんごめん。水莉がゲーム以外でこんなにやる気になっているところを始めて見たから。よほど、その碓水って奴が好きなんだね」 「す、好きって!? そんな事は……」 しどろもどろになる水莉がおかしいのか、エリはますます笑う。 「もう! エリちゃんってば!」 「やっぱり、水莉にもようやく春が来たんだね。恋人になったら教えてよ! イチカと見に行くからさ」 「だから恋じゃないってば! そもそも、碓水君とはその時しか会ってないし、連絡先も交換してないし……」 教室に戻りながら、二人はずっと同じ会話を繰り返す。 教室の近くまで来ると、エリは「実はさ」と急に立ち止まって話し出す。 「私も好きな人がいるんだ」 「えっ、そうだったの!? 誰?」 またまた水莉の声が大きかったのか、階段の隅に連れて行かれる。 「恥ずかしいから、イチカには内緒にして欲しいんだ。あいつに話すと、すぐに大事にするだろう」 「そうだね、うんうん」 何度も頷く水莉に「本当にわかっているのか?」と、エリが訝しむ。 「まあ、いいか。その好きな人っていうのが、部活の先輩なんだ」 エリによると、同じ陸上部の先輩で長距離走を得意とする一学年上の先輩らしい。 「先輩、最近、彼女と別れたらしいんだ」 その先輩には、同級生の彼女がいたらしいが、最近別れたらしい。 「それじゃあ、先輩に告白するなら今がチャンスじゃない?」 「でも、先輩は彼女と別れて傷ついているんだよ! タイムも前より落ちてるし、そこに付け入るなんて最低な奴じゃん!」
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