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「またくるわー」
「おいしかった」
タツノコもポン子も、出口の方へ向かって歩いていく。
タツノコもよく喋り、雨もアラレも振らせたから、機嫌は良くなったろう。
「ありがとうございました。またどうぞ、お待ちしております」
綺堂は客席に出て、お見送りをする。
(一生)
となると長い時間である。
だが、料理人はあまたいても、あやかし連中をもてなす料理人は、この森に、自分だけ。
そう思うと、この場所が綺堂には最適に思える。
この世でもっとも綺堂に力を与えてくれるのは、あちらさんが見せてくれる満足げな顔だ。
よく考えたら、これ以上の良いものはない。
こんな関係をずっと続けていけたらいい。
自然を大事にして、あいつらがもっと来るようにしたい。
移転するのか、東京へ出て栄誉の料理人になるのかという、悩んでいたことが、すうっと引けていった。
勘次郎には、東京であったことは話してない。
あいつはお見合いで、バツイチの男が結婚できるかどうかの瀬戸際で焦っていると言っていたから、そんな暇はない。
勘次郎自体は、意地が悪く、どうしようもない人間性だから、結婚相手が見つかったなら、逃さず捕まえばならない。
ケチや冷たいと言われて、勘次郎には憎まれているが、綺堂は人を思う優しい心があるのだ。
勘次郎には厳しい、性悪な人間だと思われているようだが・・・
それほど厳しくしたっけな。
はて・・・
ちょっと面倒事はいつも押し付けている気がするが・・・
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