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 早朝の山道を、陽奈は歩く。  一応人が進むことができるようになっているが、木々が茂り、時折険しくもなる。動きやすいようにデニムパンツとトレーナーという格好にしてきて良かったと思う。  草加恭介を探していた。  ここにいるという確証はない。生きているというのも予想にすぎない。しかし、陽奈は自らの力――ビジョン(幻影)を見る能力――を珍しく積極的に発動し、微かに感じる彼の意思を探り、それに向かってきた。  この森の中に、いる……。  かなり神経を使っていた。身体より精神の疲労の方が大きいかもしれない。それでも、陽奈はやめずに進む。  あの人を、止めなければならない。これ以上殺戮を繰り返し、人から離れた存在になりきってしまうのは、陽奈としても辛い。  父には黙って出てきた。言えば止められるに決まっている。おそらく全てを見通しているだろうと思われる父は、陽奈を大切にするあまりに、深入りすることを許さないだろう。それはありがたいことであるとともに、もどかしい……。  かなり奥まで来た。丘になった場所に立つ。谷を挟んで向こう側の山の麓あたりに、火災があった日の出製薬の研究施設を見下ろすことができた。  大きく深呼吸をして、新鮮な空気を取り込んだ。そして振り返ると、また木々の生い茂る森。  あっ……!  感じた。あの奥に、いる――。  一瞬身体が硬直してしまい、躊躇する陽奈。だが、自分を鼓舞して一歩踏み出す。更にもう一歩、と少しずつ森へ近づいていきその中へ足を踏み入れようとした時……。  来てはだめだ、陽奈ちゃん。このまま引き返すんだ――。  頭の中に響いてくる声。紛れもなく、草加恭介のものだった。
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