プロローグ

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プロローグ

「せーんぱいっ♡」 背後からのいきなりの抱擁にドキリとする。 こいつはいつもそうだ。 こちらの事などお構いなしに纏わりついてきて俺の心をかき乱す―――。 それなのに俺はどこか違和感を覚えるんだ。 俺の事を呼ぶ声。大好きだという言葉。俺を見つめる潤んだ瞳。 全てがどこか――違う誰かのようなそんな違和感。 「玖絽(くろ)はいつも元気だな」 そう言って玖絽の柔らかな髪を撫でると、玖絽は嬉しそうに笑った。 玖絽はなぜか自分の名前を呼ばれるといつもの作った笑顔ではなく本物だと思える彼自身の笑顔をみせる。あの花に向ける時のような本物の笑顔――――。 どうしていつも他人の振舞いのように見えるのか、分からなかった。 彼自身それを必死に隠しているように見えたし、俺はその理由を知る事が躊躇われ、本人に訊けないでいた。 もしもお前が隠したがっている事を無理やり暴いてしまったら、お前は俺の前から消えてしまう、そんな気がするから。 だから俺は気づかないフリをする。 「うん。だって先輩に会えたんだもん。元気に決まってる。先輩は今から帰るの?」 「あぁ、今日は部活もないし帰るつもりだ」 「じゃあ、僕とデートしよっ?」 「デートって……」 頬が少しだけ熱を持ち、すぐにすっと冷めていく。 お前のこの俺に向ける感情が恋慕によるものなのか他の何かなのか…分からないけれど、やっぱり嬉しくて、心がくすぐったくて、同時に心が冷たくなっていくんだ。 「いいでしょう?あのね、僕先輩とデートしたいんだ。デートって言ったって何でもいいんだよ?そのへんをただ歩くだけでもいいし、どこかのファストフードのお店でおしゃべりでもいいし、――最後に先輩のお家に行けたら最高だけど」 そう言ってはにかんで笑うお前がやっぱり別の誰かのようで俺の心がちりりと痛んだ。 それでも俺は、お前と一緒にいたいから。 お前の声を聞いていたいから。 お前の熱を感じていたいから。 「しょうがないな。行くか」 その違和感に目を瞑り見ないふりをするんだ。 ――――玖絽、いつか本当のお前を見せて?
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