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「はい、はい。お手数をおかけして申し訳ございません」
文也の回答を聞いている吉峰チーフの横顔の険しさは、あまり変わらないように見えたが、左様でございましたか、と電話越しの文也に告げた途端、私の方を向いてとても厳しい顔を向けた。
「西門杏璃に商品の相談を受け、マーケティングの結果をお伝えしたと、そういうことで間違いありませんね? はい。お騒がせして大変失礼いたしました。ああ、そうだ。うちの西門とのご結婚が決まったそうで、おめでとうございます。社内はその噂でもちきりですよ、ははっ。それでは、失礼致します」
相手が切った事を確認し、ガチャン、と投げるように受話器が置かれた。
「神尾。聞いての通りだ。お前には相談は受けていない、間違いなく西門に相談を受けて、データの分析を行った、と日下部さんがおっしゃったぞ! どういう事なのか、きっちり説明してもらうからな。後で別室に来い!」
チーフの厳しい怒鳴り声が静かになった部屋に反響した。
私は震える手を自分の掌で包み込み、泣き叫びたい衝動を堪えるしかできなかった。
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