乱れ華

離婚

　不倫話など世の中に溢れている。俺の元嫁もその中の一人だった。
　未成年の頃から連れ添って来たというのに、元嫁はたった一年しか共にしていない相手と駆け落ちした。
　夫婦なんて、所詮紙の上での関係にしかすぎない。何年連れ添おうが、どちらかの愛が欠けてしまえば関係は終わる。
　しんと静まった部屋の中、食卓の上には一枚のコピー用紙と離婚届が置かれている。俺はそれを眺めながら、椅子に座ったままの状態でボーッとしていた。
　嫁を無くしたのは、俺だけではない。リビングに置かれている水槽の中の金魚も、最近嫁を亡くしたばかりだ。俺達とは違い、仲の良かった金魚達。その哀しみは俺には分かりえない。
　元嫁との間に子供は居なかった。子作りをしたことがないと言えば嘘になるが、最近は触れることさえ拒まれていた。だから、いつかこんな日が来るんじゃないかと感じていたので、いまさら驚きはしない。
　これで良かったのだ。腐ったみかんと同じように、一度腐った関係は戻らない。腐ったものを破棄するのと同じで、腐りきった思い出も破棄するべきだ。
　俺は、離婚届にボールペンで木村宏彰(きむらひろあき)と書き込み、未完成だったそれを完成させた。