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プロローグ
『お姉ちゃんのを貰いなさい!大事にしないから壊れるのよ?お姉ちゃんを見てみなさい。大事にしているから今も新品同様じゃない。同じ物は売ってないからお姉ちゃんにお願いして貰いなさい。二度目はないから、それしかないんだから、貰ったら大事にするのよ?』
お父さんが出張のお土産に買って来てくれたお気に入りのオルゴールが壊れた。
お母さんに泣きついたら、出張には行かないし、そんな遠いとこまで買いに行けないし、全く同じ物だからお姉ちゃんに貰いなさいと言われた。
お父さんからのお土産は、今考えたら姉妹で「差」がつかない様にいつも同じ物だったと思い出す。
その時はまだ6歳でお母さんの言葉は全部正しいと思っていたし、素直にお姉ちゃんに言った。
「お姉ちゃん、お願い。さゆにそれ、ちょうだい。」
私の後ろにいるお父さんやお母さんの顔をお姉ちゃんが見ながら、オルゴールをくれたのを覚えている。
その手が小さく震えていたのも、涙目なのも覚えている。
今考えたら、あれは優越感というのだろう。
堪らなく嬉しい気持ちになったし、両親が何も言わない事にも嬉しくなった。
お姉ちゃんよりさゆのほうが大事なんだって。
お姉ちゃんもさゆが大事なんだって。
お姉ちゃんはさゆの為なら何でもしてくれるって……お母さんも言ってたし。
それが崩壊する日が来るなんて考えた事もなかった。
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