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「具合、大丈夫な訳?」
「だいぶ抜けました」
「悪酔いしてた?」
「すみません、今回はさすがに」
冬野さんはそう答える私に、ため息をついて、私の頬から手を放した。
でも、その手で私の事を背中から抱きしめた。
顔面が冬野さんの胸にダイブ。
冬野さんの匂い。
バニラっぽい薔薇の匂い。
「……ごめん。全部話す前に我慢できなかった」
冬野さんの言葉の意味を考える。
冬野さんは、何を我慢したと言うのだろう。
「……」
「セイ、今日はごめん」
さっきまでは怒ってたのに、今度は謝って変なの。
冬野さんは、俯く私の顔を覗き込んだ。
「俺の事、嫌いになった」
「……なってません。私は、冬野さんが好き」
私がそう答えると、冬野さんはやっと笑ってくれて、私の額に自分の額を寄せて顔を向き合わせてから、改めて私の唇にキスをした。
抱きしめて欲しい訳じゃなかった。
キスして欲しい訳じゃなかった。
愛して欲しい訳じゃなかった。
好きになって欲しい訳じゃなかった。
でも。
今は。
それが全部欲しいと思えた。
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