バイオレーション(反則技) 前編

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「具合、大丈夫な訳?」 「だいぶ抜けました」 「悪酔いしてた?」 「すみません、今回はさすがに」 冬野さんはそう答える私に、ため息をついて、私の頬から手を放した。 でも、その手で私の事を背中から抱きしめた。 顔面が冬野さんの胸にダイブ。 冬野さんの匂い。 バニラっぽい薔薇の匂い。 「……ごめん。全部話す前に我慢できなかった」 冬野さんの言葉の意味を考える。 冬野さんは、何を我慢したと言うのだろう。 「……」 「セイ、今日はごめん」 さっきまでは怒ってたのに、今度は謝って変なの。 冬野さんは、俯く私の顔を覗き込んだ。 「俺の事、嫌いになった」 「……なってません。私は、冬野さんが好き」 私がそう答えると、冬野さんはやっと笑ってくれて、私の額に自分の額を寄せて顔を向き合わせてから、改めて私の唇にキスをした。 抱きしめて欲しい訳じゃなかった。 キスして欲しい訳じゃなかった。 愛して欲しい訳じゃなかった。 好きになって欲しい訳じゃなかった。 でも。 今は。 それが全部欲しいと思えた。
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