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「今日はなんで、ガウン着ているの?」
冬野さんに言われて、私はただ苦笑いを返すしか出来なかった。
私は今冬野さんに作って貰ったヴァージンメアリを飲んでいた。
(トマトジュースとレモンジュースのノンアルカクテル。 タバスコにウスターソースはお好みで)
台所で無花果をカットする冬野さんのとなりの立っていた。
「悪酔いしてるのに、本当に大丈夫?」
「大丈夫です。美味しそう」
「大分の親戚が送ってくるんだ。他にも、色々貰っているから、好きなのあったら言って。 いつも量が多くて食べきれなくなるんだ。で、今日は珍しくガウン着てるけど、どんな風のふきまわし?」
「えっ、服を着るのが億劫だったので、つい」
「それってつまり、すぐ俺の前で脱ぐつもりでって事、それとも眠くて?」
「後者です」
冬野さんはなぜか顔をしかめた。
「即答。相変わらずだね」
「すみません」
「とりあえず、水分摂って、大人しくって、もうソファー座って」
冬野さんは、何かに気付いた様に私の両肩をつかんで、ソファーに向かうよう促す。
「いきなりなんですか?」
「ドライヤーかけてあげるから」
「え、犬じゃないんですよ。自分で出来ますから」
「だめ。ふらふらなんだろ?俺にやらせてよ」
「いや、もう大丈夫ですから」
「だめ、却下」
冬野さんはそう言って、私をソファーに座らせて私の髪をドライヤーで乾かしてくれた後、シャワーを浴びにバスルームへと消えてしまった。
ほかほかの頭、飲み物でひんやりする口の中、ガウンの心地よい肌触り。
冬野さんがお皿に切り分けて無花果にフォークを挿して口に運ぶ。
酸っぱいヴァージンメアリと独特の甘味の無花果の食べ合わせは悪くない。
なんて、舌鼓を打っていたが。
私が夢にまどろむのに、きっと、5分は要らなかっただろう。
いつの間にかうたた寝していたが、台所でまた水を飲んで、眠気を覚まして、冬野さんが戻ってくるのを私は待った。
まだ、大切な話が沢山残っている。
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