君の中の魔力の消滅と共に

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君の中の魔力の消滅と共に

 愚かな僕の妄想かと思った、そんな都合のいい夢があるもんかと思った。 「コー、ディ……あの、手を貸し……」 「レギーナ!?!?」  杖代わりにしていた太い枝が引っかかりその場に倒れるレギーナを、僕は反射的に走り出し、寸前のところで支えた。  僕の腕の中の君は、元々細かったのにさらに痩せてしまっていて、髪はボサボサで、あちこちケガもしていて……ボロボロだった。  しかし、確かに僕の腕の中にいるのはレギーナ・モンクリーフだ。 「無理……ダメだ、もう疲れた……!!」 「大丈夫? あ、木に寄りかかると楽だよ?」 「あー、ごめん……もう一歩も動けそうになくて……」 「わ、わかった! 僕に掴まって?」  聞きたいことは山ほどあるけど、とりあえず今は、限界突破したみたいなレギーナを横抱きして抱えて、僕達はジャカランダの木の下に移動する。 「コーディ……あの……」 「あ、うん? どうかした?」 「……隣に座ってくれる?」 「え? そんなの全然いいけど……」  疲れきったようなレギーナに呼ばれた僕は、君が座る隣のジャカランダの木の根っこの間に腰を下ろした。 「え? あ、え!? れ、レギ……!?」 「すごく落ち着く……」  すると、君は前触れもなく、急に僕の右肩に頭を乗せる。  耳元に聞こえる君の声に、僕の心臓は情けないけど飛び上がる。  というか、それよりも今は……!! 「……レギーナ、聞いてもいい?」 「うん、何でもいいよ」 「今までどこにいたの? というか、そのケガもだけど……何で、治癒魔法で治さなかったの?」 「……私ね、魔法はもう使えないんだ」 「あ、そうなんだ……何だって!?」  優しく、無理をさせないようにゆっくりと話をしていきたかったが、質問の回答として返ってきたレギーナの言葉に僕は叫んでしまった。  思わず、だけど、なるべく右肩を動かさないように気遣ってレギーナに顔を向けると、君は目を閉じたまま話し出す。 「私、誰も死んでほしくなくて、禁断の呪文を唱えたの」 「あ、それなら、少し聞いたよ?」 「そっか……それで私の中の魔力が全部解き放たれて、その衝撃波みたいなものに国境まで飛ばされたの」 「え!? あんなとこまで……!?」 「そうなの。最後の力を振り絞って、地面に叩きつけられることだけは、何とか免れたんだけど……」 「まさか、それが最後の魔法……?」 「……正解」 「そんな……!! じゃあ、ずっと今日まであの国境から、歩いて来たの!?」 「またまた大正解です……」  僕は開いた口が塞がらなかった……国境とは辺境も辺境で、王国まで健常者でさえ歩いたら三日はかかるのに……  こんなにボロボロで、杖をついてまで歩いて、きっとおまけに飲まず食わずのせいでこんなに痩せたんだろうに…… 「誰かに会わなかったの!? こんなボロボロなら、助けてくれるはずだよ!?」 「あ、森の方が道わかるから、ずっと森の中を歩いてて、人には……」 「……もう! どうして、近くの街に助けを求めようとか思わないの!? 君の顔は全国民が知ってるんだよ! そうすれば、すぐに保護されて、僕達にも君が無事だったって一報が届くんだから!」 「そっか……思いつかなかった」 「しっかりしてよ、本当に……!!」 「あ、ご、ごめ……また迷惑を……!?」  僕はレギーナが言葉を最後まで話し終わる前に、力強く抱きしめた。 「レギーナ、ごめんね……僕、あの時は君にひどいことを!」 「コーディ……」 「もう謝れないかと、二度と会えないかと思ったよ……!! ありがとう、生きて帰ってきてくれて……」  君が生きていてくれるなら、僕は他に何も望まないから。 「……ねえ、コーディ? 私って魔力が消滅したでしょ? それと同時に魔法族じゃなくなったの、私!」 「うん……え?」  けど、安心してホッとしたのもつかの間で、君の言葉に僕は耳を疑った。  思わず体を離し、レギーナの顔を見ると君は満面の笑顔で…… 「私、人間になったの! これで、コーディとずっと生きていけるよ!」 「それって……」  何だか、とんでもないカミングアウトを勝手にしていた。   「え、待って……あんなに魔法戦争に行くことにこだわったのは、人間になるためだったってこと?」 「あと、私の魔力量なら、上手くいけば全員無傷で魔法戦争を終わらせられるかと思って……」 「何で、そんなこと……」 「コーディが好きだから!」 「……え?」 「告白してくれて、本当にすごく嬉しかったの……けど、私は一緒に歳をとることとかできないし、コーディが死んで取り残されるのも耐えられないから、必死に諦めようとしたんだけど……」  君は意を決したように、その真っ赤に染まった顔を上げて、僕に言い放った。 「……あなたのこと、諦められませんでした。もし、まだ私のことを好きでいてくれるならば、私と一緒に生きてくれませんか?」  本当に君は無茶苦茶で、僕の心をかき乱すよね?  僕のために強大な魔力と、この先に待っていた未来を捨てるなんて…… 「ジャカランダの花の如く、気高いレギーナ・モンクリーフ。僕は未来永劫、君を愛します、ずっと……」    忘れることないこの手の温もりを僕は守ってゆくだけだ、永遠に――
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