二つの種族が共存する世界

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二つの種族が共存する世界

「もし今、この一生に終わりがきたら後悔なんてないって強く言える?」  君が僕にそう言って悲しそうに笑ったのは、僕が十五歳、君が百七十歳の時だっだと思う――  僕はコーディ・ヒューバート、この王国の第一王位継承者。  太陽に透けると黄金に輝く金髪と、エメラルドのように輝いていると言われる緑の瞳が特徴の華やかな外見。  けど、闇夜の窓ガラスに映る自分はあまりに暗く、僕は失笑する  今、王宮の僕の部屋には、僕を含めた五人の人間がいて、目の前では僕以外の四人が激しい口論の真っ最中だ。  いや、三対一で、一人が責められてると言った方が正しいかもな。 「行かせないわ……絶対に! これは決定事項よ! 王女の命令よ!」  一歳下の妹で、この王国の王女のミカエラ・ヒューバート。  僕と同じく透き通る金髪に緑の瞳。  背中まで伸びたウェーブがかったその髪と、細く白いきめ細やかな手足は妹の可憐さを引き立たせる。  けど、今はそんな妹は着ている緑のお気に入りのドレスに大粒の涙をボロボロ零して、ある人物に叫んでいる。 「何でだよ! 何で、せっかく仲間になったのに離れて行こうとするんだよ!」  同い年で幼なじみ、この王国の騎士団長の息子、トレヴァー・メルボーン。  短く整えられた黒髪と、綺麗に混じり合った青と紫の瞳。  まだ十七歳だというのに、騎士団への入団準備のために鍛えられた体は、もう完成されている。  けど、今の彼はその綺麗な瞳に怒りを宿しており、ある人物に吠えていた。 「よく考えてくれ! こんなこと簡単に決めていい話じゃないだろ……!!」  一歳下の幼なじみ、この王国の外務大臣の息子、クレイトン・サザランド。  男にしては長くなった銀髪を低いところで縛り、瞳は交じりのない黒。  この若さでよくキレる頭脳の持ち主であり、将来を期待されている。  けど、冷静沈着な普段の彼の姿はそこにはなく、とても興奮した様子で、ある人物に訴えている。 「……みんな、大丈夫。必ず帰るから」  そして、そんな三人に責められている人物は、レギーナ・モンクリーフ。  長く伸びた紫の髪、緑と黄色が混じる不思議な瞳が特徴の少女は、少し泣きそうに笑って、そう答える。  つばが広めの尖った頭頂部の先が折れ曲がった紫のとんがり帽子、シンプルなデザインの膝丈の紫のワンピース、紫の先端が尖ったミニブーツという奇妙な格好を、彼女はしてる。  そんな格好をいまさら誰かが咎めることはないだろう、なぜなら――彼女は魔法族だから。  この世界では人間と魔法族がそれぞれ存在しており、お互いに周知している。  代々王国には必ず魔法族が住み着いており、人間を様々な脅威から守ってきたという歴史がある。  けれど、僕達人間は得体の知れない魔法族のことを恐れてその存在を遠ざけてきたし、魔法族も人間に近付いてくることはなくて、何百年もお互いの世界に干渉せずという均衡が保たれていた。  しかし、六年前にその境界線を超えてしまった魔法族がいた。  それがレギーナ・モンクリーフだ。 「なぜ、レギーナ? あなたは、私の最初で最後の親友なの! 心の奥では私のこと恨んでる? お願いだから、私の側にいて……どこにも行かないで……!!」 「冬に川に突き落としたことを怒ってるのか!? それとも、他のことか!? 何が理由でも何度も謝るし、気が済むなら殴れ……お前はここにいてくれよ!」  ミカエラは泣き叫びながらレギーナに縋りつき、トレヴァーはレギーナの肩を掴んで悲しそうに詰め寄る。  レギーナが均衡を破ったことで、僕達人間の生活はガラリと変わった。  初めは思い出すと吐き気がするほど僕達人間は、レギーナや他の魔法族のことを迫害した。  暴力、差別、裏切りなど、怖かったとそんな言い訳が通用しないほど、僕達はレギーナ達を苦しめた。  人間に魔法を使うことを禁止されてることも相まって、迫害行為は増長した。  ミカエラとトレヴァーが言う通り、許されなくてもしょうがないし、謝って済まないようなことを、たくさんした。  けど、次々と他の魔法族が自分達の世界に帰って行く中、レギーナだけは僕達の世界に残って、何度も僕達人間のことを魔法で助けてくれた。  そんなレギーナに、いつしか僕達は絆され魔法族へ正式な謝罪を送った。  当然だけど、最初は魔法族は人間の謝罪を拒否していた。  けど、時が経つと徐々に受け入れてくれるようになり、やがて人間と魔法族は手を取り合うようになった。  そして、その頃には僕達四人は、もうレギーナが大好きだった。
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