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01.同期の彼
寒い。
寒すぎる。
もう11月末だというのに、この職場はどうしてこうも寒いのだろう。会社なんだから暖房をつけているはずなのに、席を立って何度設定を確認しても冷房になっている。私が暖房に戻して安心していても、いつの間にか冷房に切り替わって、厚手のカーディガンとひざ掛けをして寒さに耐えている。
でも、今日はまだいいほうだ。
彼が、出社していないから。
「戻ったぞー」
「おかえりなさい、部長」
外回りに出かけていた営業の人たちが戻ってきた。声をかけると、笑顔を見せてくれる。
スーツが似合う紳士的な営業部長だ。寒さが癒されるのも束の間。
「たっだいま~」
続いて明るい声が響く。社内の寒さの元凶だ。
「……」
仕事仕事、と視線をデスクに戻すと、放っておいてくれればいいのに彼は私に向かってオフィスに響く声を発する。
「おい安部、どうしてオレのこと無視してんの!」
「…………無視してないけど」
「嘘だ! オレが目を見てただいまって言っても何も返してくれなかったじゃん!」
「うるさいなあ、藤森部長への挨拶に含まれてたの」
「なんだよそれ~」
へなへなと座ったその先は、私の正面のデスクだった。営業部と、営業事務の私は同じデスクの島にいるのでいやでも近くになってしまう。頭上には、クーラーがある。入社した時から彼とは温度調節の戦争の日々だ。
今日は朝から調子がよかったのに、途端に寒くなってきたからいやな予感がしたのだ。
彼――三ツ橋涼三ツ橋涼が帰ってきた、と。
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