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#1
「……部屋が、荒らされてる」
学校から帰ってきたミックスは、自分の家に戻るなり絶句した。
それは部屋中が引っくり返され、ありとあらゆるものが散らばっていたからだ。
ミックスが住んでいるのは、通っている学校の学生寮だ。
とはいっても、国が戦災孤児用に作った学校の寮なので、大したセキュリティーはされていない。
靴を脱いで部屋へと入ったミックスは、まず冷蔵庫を開けた。
「よかった。今日の晩ご飯は無事だ」
そして、中を確認するとホッと安堵の表情を浮かべるのであった。
それよりもまず見るべきものはあるだろうと言いたくなるが。
彼の部屋には盗まれて困るような金目のものなどなく、せいぜい生活に必要な電化製品があるくらい。
――なのだが、ミックスは散らかされた部屋からあるものを発見してしまう。
「あぁぁぁッ!? 銀行のカードがッ!?」
そこにはボロボロに折れ曲がったキャッシュカードがあった。
両親はなく、兄と姉と三人で暮らしていたミックスにとってこれは一大事である。
彼は今すべての生活費を兄と姉から送ってもらっている。
もう時間的に銀行は閉まっているので、キャッシュカードを再発行してもらうには明日まで待たねばならない。
これから一週間分の食材を買いに行くはずだった予定が、お金が引き出せないことで狂ってしまったのだ。
絶望の表情を浮かべたミックスは、折れ曲がったキャッシュカードの前で両膝をつく。
それからガクっと俯き、その身をプルプルと震わせた。
「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」
そして、乾いた笑みを浮かべ、部屋を片付け始めるのだった。
着ていた学校指定の作業用ジャケットを脱ぎ、散らばっている本やゲーム機を並べていると――。
「うん? あれって……?」
ベランダに人が倒れているのが見える。
ミックスは手に取っていた本を床へと置き、ひとまず考えることにした。
あれが自分の部屋を荒らした犯人か?
ならば、どうして逃げずにベランダで倒れているのだろう?
「まさか……睡眠不足の泥棒さんだったとか?」
両腕を組んで首を傾げたミックスは、つい独り言を呟いてしまっていた。
国が作った学生寮とはいっても、ここはどこにでもある普通のワンルームマンションと同じ造り。
そんな狭いベランダで、なぜわざわざ倒れているのかがわからない。
よほど眠たかったのかと、恐る恐る開いた網戸からベランダへと乗り出す。
「うちは貧乏だからお金はありませんよ~。誰にも言いませんから早く帰ってください~」
そして、倒れてる人物へ小さく声をかけると――。
「へっ? 女の子……?」
ベランダにはミックスと同い年――十五歳くらいの少女が倒れていた。
全身ミリタリールック姿で、その側には、先端にナイフの付いた銃が置いてある。
髪はサイドテールにまとめてあり、ずいぶんと長い。
解けば腰まで届きそうな感じだ。
しかし謎である。
意味がわからない。
なぜ自分の部屋にミリタリールックの女の子がいるのだ。
ミックスが唖然としていると、倒れている少女は呻き始めた。
「大丈夫!? ねえ、ねえッ!?」
声をかけても反応がない。
どうやら気を失っているようだ。
ミックスはこのままにしておくわけにもいかず、少女を抱えて部屋のベットまで運ぶことにする。
「それにしても……綺麗な顔をしてるなぁ。とても泥棒には見えない」
運びながら、気を失っている少女の顔を覗き込むミックス。
彼は少女の顔を見ながら、また独り言を呟いていた。
そして優しく少女を寝かすと、彼女の両目がいきなり開く。
「誰なの……あんた……?」
「い、いや、その……わ、わたしはですね……」
それは、どう見てもベットで横になっている女の子に、男が襲い掛かろうとしている絵面だった。
ミックスは善意のつもりで少女をベットに運んだのだが、彼女は勘違いして大声をあげる。
「キャァァァッ! ヘンタイッ!」
「誤解だよッ! 俺はキミが心配でッ!」
ミックスが彼女へ説明しようとした瞬間――。
少女の頭が彼の額へ直撃。
その一撃でミックスは脳を揺らし、そのまま気を失ってしまった。
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