スイートピーが咲く頃に

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  1日1回の絵本の読み聞かせの時間。お母さんは決まりのセリフを言った。 「ねぇリズ、今日はどの本が良い?」 「昨日と同じ話!」とリズは答えた。    その話とは、今から1000年前の話。  医療技術や人工知能が発達し、人々は働くことをしなくて良くなった。人生150年時代と言われ、人は自由で幸せな長い人生を楽しんでいた。だが、寿命を先延ばしにしたからと言って、人は死から逃れられない。  これを嘆いた一国の科学者が、不老不死の薬を開発した。そして、その国から死亡者は出なくなった。  この話を聞いた様々な国が不老不死を持つ国に、薬を買いたいと交渉に出たが、それらは全て拒否された。  これに怒った国々が戦争を仕掛け、世界は核兵器によって汚染された。汚染された地に再び植物が生えるのは何千年後だろうか。 「はい。今日の話はおしまい。歴史書の話を聞きたいなんて、リズは物好きね。」 「だって、いつ植物が咲くのか楽しみだから。」  それからリズの母は、自分の寝室に戻っていった。  真夜中に隣の部屋から聴こえるゴホン、ゴホンという咳の声。リズの母は、もうずっと風邪をひいている。父の時もそうだった。  2年後、リズの母はベットに寝たきりになった。咳が止まらなくて呼吸が出来ない状態だ。  お医者様に診てもらったけれど、「大気汚染による肺がんです。もう長くはないでしょう。」と言い、泣き喚くリズを励ますだけだった。  そして4年後、リズの母は死んでしまった。29歳だった。葬式には様々な人がいて、リズの母の死を悲しんでいた。 「平均寿命より4年も長く生きるなんて、よほど娘と一緒に居たかったんだなぁ。」 「残された子には身寄りがない。なんて可哀想なんだ。」  葬式が終わると、リズは家に戻った。涙が枯れるまで泣き続けると、辺りはもう真っ暗だった。  母の部屋に行き遺品を整理しようとすると、ベットの下に赤い箱を見つけた。蓋を開けると、手紙と沢山のお金、そして植物の種らしき物が入っていた。  手紙には、リズがしばらく生きられるぐらいのお金をずっと貯めていたこと、植物の種は先祖代々咲かせようとしてきたけど結局咲かせることが出来なかった花の種だということそして最後に、「リズならきっと咲かせることが出来るよ。」と書かれていた。
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