第1章―1

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第1章―1

 何やら楽しい夢から醒め、時計を見ると九時を回っていた。隣では、背を向けルリが眠っている――多分。  昨夜のよくある一件を浮かべ、腰を起こして伸びをする。大きな欠伸も放ちリビングへと下りた。 「お母さん、おはよー」 「ミクおはよう」  スーツを羽織りながら、母親が顔をあげる。本日は火曜日だ。一般的には本来学校に居るはずの時間である。しかし、だからと言って急ぐことはない。このような朝は日常の一部だ。  朝の一杯(牛乳)をコップに注ぐ。私もと言い、横に立った母親が目配せした。 「ルリちゃん、いつもの?」 「そう」  ルリは私の従姉妹で、同居を始めて四年になる。年は同じ十四で、血液型も身長も靴のサイズまで一致していたが、性格は間反対だった。  ネガティブでセンチメンタルで死にたがり、それがルリである。とは言え、彼女が歪んだのは訳あってのことだ。  そんなルリは、ある出来事が生じた時、いつも起きてこなくなる――いや、長時間目覚めない眠り姫になるのだ。 「そっか、また励ましてあげてね。じゃあ、私仕事行ってくるわ」 「任せて!」  母親は、使用したコップを放置し去ってゆく。手を降って見送り、トーストするべく食パンに手を着けた。その際、改めて音に耳を傾けたが、起床の気配はなかった。    ルリには変わった能力がある。それこそが予知夢を視る力だ。ただ、それは本人が望まなくとも生じる現象で、しかも全てが悲劇だった。その夢を視る際、ルリは一日ほど眠り続けるのだ。  それは幼少期からのもので、近しい存在だった私は、詳細を自然と耳に入れていた。その頃のルリは、夢の内容を全て教えてくれるような子で、私たちは共に悲劇の回避を求め奔走もした――一度だって抗えはしなかったけど。  その習慣が崩れたのが四年前、ルリの両親が事故死した時だ。その時、線が切れたようにルリは変わった。心も話も閉ざすようになり、自傷行為まで始めた。末に一度自殺未遂もしている。  だから、その日から私はルリを見守ることに決めた。不定期な登校もその為だ。ルリに合わせて行動し、ルリの為に生きている。そう言っても過言ではない。  その理由が"ルリを一人の人として愛しているから"と言うのは一生の秘密だ。
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