聖夜は甘く濃蜜に

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 翌日は予定通り、日菜子は朱美と共に遊びに出かけた。  ここ最近の休日はずっと玲司と一緒だったので、こうして女同士で街に繰り出すのは実に久しぶりである。  パンケーキ屋に入って席に着くなり、朱美からすかさず玲司との近況を聞かれた。  その際、昨夜の情交を思い出して恥ずかしさが込み上げてきたが、日菜子はどうにか平静を装って順調だと答えた。  玲司の素性については、朱美にも未だに話していない。  彼女が信用できないわけではないが、親戚に警察官がいるので恋人が元マフィアなどと気軽には話せなかった。  友人に隠し事をしているのは辛いが、自分達の幸せな暮らしを守るためにはこうするしかないのだと、日菜子は罪悪感を打ち消すように強く言い聞かせる。  注文していたパンケーキが運ばれてくるなり、日菜子と朱美はそれぞれ自分のスマホで写真を撮った。 (帰ったら玲司さんにも見せてあげようっと)  日菜子は画像を確認したのち、ナイフで一口大に切ってさっそく食べ始める。  パンケーキのふわふわした食感と、甘い味が瞬く間に口の中に広がり、幸せな気分が込み上げてきて表情が自然と綻んだ。 「このパンケーキ、すごく美味しいね。もう本当に蕩けちゃいそう」 「でしょう! 初めてこのお店に来た時、日菜子も絶対に誘わなきゃって思ったの!」  朱美も満面の笑みでパンケーキを口に運んでいった。  この時の彼女は本当に幸せそうで、見ている日菜子もますます嬉しくなってくる。 「ところで、今日は何だかすごく嬉しそうだけど、何か良いことでもあったの?」  大好物を食べているからというのもあるだろうが、店に入る前から朱美はどことなく上機嫌だった。  日菜子が思い切って尋ねてみると、朱美はフォークとナイフを置いて頬をほんのり赤らめる。 「……実はね、少し前から付き合っている人がいるの」 「本当!? 良かったじゃない!」 「でも、まだ友達以上恋人未満ってところだよ」 「それでも、今から少しずつ仲を深めていけばいいじゃない」  朱美は元彼と辛い別れ方をして以来、恋愛に乗り気でなくなっていた。そんな友人が新たな恋に巡り会えたことに、日菜子は自分のことのように心から喜ぶ。 「それで、どんな人なの?」 「城戸隼人さんっていって、キャリア採用で警視庁に入った人なの」 「へぇ、キャリア採用……ね……」  警察組織のことなどろくに知らない日菜子は、ぎこちない笑みでうなずくしかなかった。  それに、自身の恋人が元マフィアということもあって、警察と聞くと彼の経歴がバレやしないかとつい緊張してしまうのだ。 「まあ、キャリア採用のことは置いといて……。隼人さん、とても真面目で優しそうな感じの人なんだ。実は来週のクリスマスに食事に誘われたの」  彼に誘われたのがよほど嬉しかったのだろう。朱美はパンケーキを食べている時以上に、キラキラと表情を輝かせていた。 「その隼人さんって人と、いい関係になれるといいね。私、応援してるから」 「ありがとう、日菜子」  日菜子が優しくエールを送ると、朱美は満面の笑顔で大きくうなずく。 「あのさ、朱美。甘い雰囲気に水を差すようで悪いんだけど、一つ相談に乗ってもらってもいいかな?」 「もちろんよ。私達、友達じゃない」 「ありがとう。実は玲司さんへのクリスマスプレゼントなんだけど、まだ全然決められなくて……」  その際、すでに彼の誕生日にプレゼントを渡しているので、改めて何を贈ればいいのか困っていることを付け加えた。 「確かにそれはちょっと悩むかもね……」 「だよね。玲司さんは、別に無理して買う必要ないって言ってくれたんだけど、それでもちゃんと渡したいなって……」 「偉いね、日菜子は」 「別に偉くなんて……」  ――愛する人と過ごす最初のクリスマスなので、やはり一生の思い出に残るような一夜にしたい。  すると日菜子の心情を察したのか、朱美は屈託のない笑顔を向けてくる。 「私、日菜子と玲司さんが最高のクリスマスを過ごせるよう、協力するよ」 「朱美、ありがとう」  ――朱美と一緒なら、きっと素敵な贈り物を見つけられる気がする。  日菜子は来週のクリスマスに想いを馳せて微笑んだ。
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