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ある路地裏に小さく構える怪しげな店があった。
店の看板には『掃除屋』と書かれており、その下には「掃除の事ならお任せください。どんなものでもきれいさっぱりに!!」と謳い文句が殴り書かれていた。
特に広く宣伝している訳ではないが、何故か甘い蜜に虫が寄るように、自然と客は足を運んでいるようだ。
今日も暗い路地裏にふらりとやつれた三十代の男が足を踏み入れた。
男は吸い込まれるように『掃除屋』のドアノブに手を掛け、木で出来た古いドアを引き開ける。
ドアの金具が擦れる耳障りな音に若干の不快感を覚えながらも、引き返すことなく男は店の中に入っていった。
「いらっしゃいませ。我が店にようこそ」
それと同時にカウンター越しに佇む店主が声を掛けた。
ひょろりと細長いそのシルエットが店内の蝋燭の火に照らされ、より一層奇妙さを助長する。ニメートル程はあるだろうか。血をイメージさせる真っ赤な短髪にピエロのような服装。糸目から覗かせる鋭い眼球も含め、彼に街中で出会ったならば絶対に話しかけることは無いと多くの者が言うだろう。
「ここはちょっと変わった『掃除屋』でしてね。貴方が望むモノやヒト、人生の枷となる邪魔な存在を何でも掃除して差し上げます。そう何でもね、ククク。では、話を進めましょうか……金田呉男さん」
店主は男が名乗っていないにも関わらず、フルネームを言い当てる。
男……金田が「なぜ」と問う間もなく、店主による店の紹介が続けられた。過去の掃除例を恍惚とした表情で嬉しそうに話す店主。
会社の上司、旦那の浮気相手、家族の病気、日光を遮る高層ビルなんてものもあった。
甚だ妄想じみた話を続ける店主に対して、遮ろうと思えば如何ようにも出来た金田ではあったが、そうはしなかった。
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