それが運命だろ?

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それが運命だろ?

退屈をもて余している時だった。 仕事の都合で遅くなったこの日は、昼休憩の時間からずれたせいで、オフィス街の飲食店もいつもの混雑もなく、一人の食事はあっという間に終わった。一人というのは退屈だ。あまり好きではない。好きではないだけで、一人の過ごし方を心得ていないわけではなかった。 本屋でも。と、そこへ向かう。目当ての本がない場合は一通り平台へと目を通すことにしている。 手にとり、帯や裏表紙を見ては元に戻した。散々繰り返した後でようやく、1冊の本に決めた。読みやすそうだと思わせる手書き風のポップな文字の帯がついていた。それに反して表紙シンプルなものだった。スーツの袖口を捲るとまだ休憩時間を終えるには早い。急ぎの案件もないし、カフェで読むか、そう思った。 その平台へと誰かが近づいたので、その人を避けるのに一歩引いて、少し待つことにした。 彼女は迷うことなく俺の買うつもりだった1冊を手に取って、表、裏と確認する。少し捲ってすぐに閉じた。 彼女が去るまで待てばいいのに、つい平台へと手を伸ばし、彼女と同じものを手に取った。彼女によって取られた本の、その下にあったものだ。俺の買うつもりだったものが彼女の手の中にあることに不思議な感覚を覚えた。散々迷って決めた俺とは違い、この本を目的に来たのだろう彼女は……俺がさっきその本に触れたことすら知らない。
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