君だって

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「俺は……弱くて、自分に自信がないから」 「だからほいほい抱かれるんですか?」 彼は、湯川の背中に顔を押し付けたまま、左右に首を振っている。まるで駄々をこねる子どものようだった。 しばらく、沈黙を挟んだ。 すると瀬戸内は、顔を押し付けたまま、静かに言った。 「君だって……」 瀬戸内の指先に、力が入った。 「君だってまだ、成田を忘れてないじゃないか……」 言われた瞬間、湯川は冷静さを欠いて、彼の腕を振り解いた。 床に置いたバックパックから手帳を取り出し、ペンを抜き取る。 それを力任せに折り曲げた。 真ん中から派手に折れることはなかったが、接続パーツがバラバラになって床に落ちた。 手に持っていたパーツの残りを乱暴に投げ捨てると、罵声にならぬように一度、ゆっくりと息を吐く。 「瀬戸内さんが帰った後、大智の写真を全部消したんです。今日、あいつと話した時も、もうなんともありませんでしたよ」 「湯川君……」 「俺のなかでは、もう整理できてたんです。明日、あなたにちゃんと話すつもりでした。でも、瀬戸内さんは俺に平然と嘘ついてた」 手のひらで顔全体を覆うと、ふたたび息を吐いた。 喉元を息が伝う時、微かに震えていることに気づく。 「もう無理です。俺じゃ、あなたを受け止めきれない」 言い放ち、バックパックを手に取った。 「湯川君、待って」 まとわりついてくる瀬戸内を押しのけて、廊下に進む。 買ったばかりのスニーカーだが、かかとが潰れることも躊躇せずに足を突っ込んだ。 「やだ……行かないで。お願い」 ドアノブを手に取ると、腕を引っ張られた。 涙ぐむ表情を見ていると、気持ちがぐらついたが——強引に振り落とした。 「やだよ。湯川君……」 そのまま外に出ると、エレベーターに向かって直進した。 待っている間に追いかけてくるかと思ったが、ドアがふたたび開くことはなかった。 ——所詮、その程度だ。 そもそも最初からわかっていたじゃないか。 自分と彼は別の世界の人間だと。 自分とは違うと。 エントランスを出て、終電を逃していることに気づいた。 湯川はため息を吐いてから、ひとり、タクシーのつかまりそうな大通りに向かって歩き出した。
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