ブレインクリーニング

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「なーなー、最近話題のブレインクリーニングいかない?」  俺を誘うのは親友の史明(ふみあき)だ。顔の真ん中を拳で殴られたような求心的な顔つきが特徴の陽気な男。  最近ベンチャー企業が開発し、一時話題を総ナメにしたブレインクリーニングに行きたいと言い出した。  まだまだ未知なる機械ゆえ不安はつきまとうが、頭の中を整理するにはこの上ない。  史明とは音楽ライブで知り合った。  ダイブしようと必死にもがいていた史明を俺が担ぎ上げた。飛んでは戻ってきてまた飛ばし、それを何度も繰り返した。  一緒に音楽を楽しみ、気がつけば携帯番号を交換していた。  それからはライブがあるたびに誘い合い、時間が合えば二人で出かけるようになった。今では親友だ。  俺にそのバンドを教えてくれたのは、俺の元カノのだった。  駅前でたまたま見かけた彼女に声をかけご飯に誘った。ナンパ慣れしていたのだろう。「ご飯だけならいいよ」と付き合ってくれた。  それ以降も何度もご飯に誘い、ついには付き合うことになった。  彼女の趣味は音楽鑑賞だった。見た目からは想像できなかったが、重低音がドコドコのヘビーなサウンドにデスボイスが好みだ。  俺もなんとなく聞いていたら好きになった。  付き合って一年くらい経った時だった。俺は浮気した。  心臓を揺さぶる重めのサウンドではなく、軽めのサウンドのK POP音楽を聴くようになった。   彼女はそんな俺を許せなかったらしい。 「音楽の趣味が合わないから別れましょう」  突然の別れ話だった。  ハード目な音楽をこよなく愛する彼女に三行半(みくだりはん)を突きつけられた。  ちょっと聞いてただけなのに。綺麗なお姉さんがジャケットに沢山映っててジャケ買いしただけなのに。  あの時K POPを聞いていなければこんなことにならなかった。  それ以前に、一年も付き合ってるんだからというおごりもあったはずだ。  もう戻れない過去。思い出すだけで切なくなる。  真っ先に思いつく消したい記憶は彼女との思い出だ。大好きだったからこそショックが大きかった。  冬になると必ずかかるあの名曲を聴くと、どうしても彼女との思い出が蘇る。
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