おそうじ。

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おそうじ。

 これは私が、とあるアパートに引っ越して暫くした後のことである。  東京の大学に進学するにあたり、私は念願の一人暮らしというものを開始した。授業がない時はバイトを詰め込みまくり、充実した大学生ライフを行っていたのである。  自分で言うものなんだが、私は大抵のことは要領よくこなせる質だった。大学では友達もできて、レストランのバイトも大変ながらやりがいを感じ始めていた年の冬。私は大掃除の時期ということもあり、思い切ってお掃除ロボットを購入することにしたのだった。バイトで貯めたお金があれば、あの丸くて可愛らしい自動掃除機を買うくらいの余裕は十分あったからだ。  社名からもじって、私は彼を“るんちゃん”と呼んで可愛がることにした。それは実家から連れてきた猫、“こうちゃん”と仲良くしてくれるといいなという希望もあってのことである。白黒のマダラ猫であるこうちゃんは、長いお留守番もものともしない、ある意味優等生的な猫だった。飼い主ともあんまり遊んでくれないのが悩みであったので、るんちゃんに興味を持ってくれたら楽しいなと思ったというのもある。 「おーいこうちゃん、るんちゃんの上に乗ってもいいんだぞー?ほら、猫はお掃除ロボット好きだってSNSに乗ってたし!」  残念ながら、私がいくらおすすめしても、こうちゃんはるんちゃんに興味を持ってくれなかったわけだが。るんちゃんのお掃除の邪魔もしないが、その上に乗っかったり遊んだりする可愛い姿を見せてくれるわけでもない。お前は一体何になら興味を持ったり警戒したりするんだ?と若干心配になったほどである。なんせこうちゃんと来たら大人しいというより何に関しても無関心な猫で、窓の近くに烏が来ても友達が遊びに来ても全く気にする様子もないのだ。  いつもこうちゃんは、床にぼんやり座ってうとうとしながらるんちゃんのお掃除を見ている。るんちゃんが近づいてくると、欠伸をしながら場所をどくのはお利口と言えばお利口だろう。そのせいか、外出先でるんちゃんのお掃除状況を確認しても、“障害物で起動を停止しました”的なお知らせが来ることは多くはない。こうちゃんが上手にるんちゃんを避けてくれているためだと思われた。  有難いけれど、ちょっぴり退屈な日々。  変化が現れたのは、るんちゃんを購入して二週間ばかり過ぎた頃のことである。
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