だんしゃりしゃり

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 わしは祖母が断捨離をする時まで取っておいてくれた祖母の手編みのニット帽を胸に抱いた。 赤ん坊の頃に被ってたやつやから何も覚えとらんけど、写真に映る小さなわしがいつも被せてもうてた帽子。 汚いから、と思い切って捨てると言った祖母から取り上げて自分の宝箱にしまった。その想い出が鮮明に過る。  「……雪菜」 「なん?」 ニット帽を抱えたまま孫の名を呼ぶと壁に凭れたままいつの間にか持ってきたアイスを頬張っていた。 「……おまんに頼みがある」 「なんね??」 「おまんにしたら汚くて触りとぅないかもしれんが、わしが死んだらこの帽子をわしの棺に入れてほしいんや。頼みを聞いてくれたらわしのヘソクリはおまんに全部やる」  アイス片手に気だるそうな雪菜に札束の入った茶封筒をフンッと渡すとめんどくさそうに受け取り中を見て目を見開いて驚いていた。 封筒とわしを交互に見る孫にみかねて一筆したためる。 ─── 雪菜へ わしの最期の願いを叶えてくれたら中身はやる ───  ちょっとした遺言書のような気がしてあまり気乗りしないが、これで雪菜が大金を持っていても家族の誰からも責められんだろうと信じて……。
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