ダチュラ ーXmas ver.―

3/20
215人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 朝は五分でも惜しい。慌ただしく出かける準備に追われていた杏子は、訪ねて来た郵便局員から内容証明郵便を受け取った。封筒の中身は気になったが、遅刻しそうなので鞄に押し込み、会社に着いてから開封しようと思っていた。すっかり忘れていて、開封したのは昼休みだった。  差出人の『白井茉希』という人物にまったく心当たりがなかったが、宛名が自分だったので気味悪く思いながら封を開けた杏子は書かれていた内容に度肝を抜かれた。  一年半付き合っていた貫太には配偶者と幼い子どもが二人もいたことを、杏子は通知書によって初めて知ったのだった。  当然のことながら、杏子はすぐに貫太に電話をかけた。  今夜はクリスマスイブ。数ヶ月前から会う約束をしていた。 「あ、もしもし。貫ちゃん!?」 「この電話はお客様のご都合により……」  今しがたまで恋人だと思っていた男から、何の前触れもなく着信拒否されていた。杏子は呆気なく現実を突きつけられた。 「チッ……」  あまりのショックに涙も出なかった。代わりに出たのは舌打ちだった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!