4 こっくりさん

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A子は驚くべきことを言い出した。 「実は、カメラ回っている間はあたしが動かしてたんだ」 A子は机の中より台本を取り出した。そこに書かれていたこっくりさんのシーンには「10円玉をこの通りに動かしてくれ」と、監督が書いた行動説明のト書きがされていた。 つまり、「好きな男子」「親の名前」「担任の名前」「ちょっとした計算」など、彼女達が知っていて当然の質問の答えはA子が監督のト書きに従って10円玉を動かしていたことになる。ぼくの台本、他のスタッフ、B美、C奈、D花の台本には「10円玉を動かす時はアドリブで」と書いてあった。 A子は更に続けた。 「カメラ止まってから、あたし一切動かしてない。てか、どなたですかって聞いてから動かしてないもん。誰かが勝手にやってると思ってた」 今、10円玉に指を乗せている彼女達は誰ひとりとして、10円玉を意図的に動かしてないことになる。 女の嫉妬に狂った修羅場の空気が一気に冷えた。その冷えた空気の中、D花が皆に叫んだ 「だから言ったじゃん! こっくりさんのタブー破ったから怒ってるんだよ! はやく謝って帰ってもらおう?」 D花は深く深呼吸をしてこっくりさんに向かって話しかけた。 「こっくりさん こっくりさん あなたのことを聞いて申し訳ありませんでした。本当にごめんなさい。どうか、お戻り下さい」 10円玉は先程までのゆっくりした動きとは違い、素早く滑るような動きを見せて 「いいえ」の上に乗った。 D花は更に説得を続ける。 「こっくりさん こっくりさん お許し下さい」 10円玉は動き出した。ぼくと彼女達はその動きを見て全身の血の気が引くような感じを覚えた。 「ゆ」「る」「さ」「な」「い」 許さない。確かに「名前を聞くこと」はこっくりさんのタブーだ。それを破った人間に祟りを与えるまで帰らないということだろうか。ただ、ぼくはまだ彼女達の誰かがまだフザけている可能性を捨てていない。 すると、10円玉が動き出した。 「な」「に」「か」「し」「つ」「も」「ん」「し」「ろ」 「許さない」と敵意を露わにしたり、かと思えば「何か質問しろ」と、遊びたがっているようにも思えてくる。こっくりさんで呼ばれるのは低級のはぐれ稲荷と言う獣の霊とも神様とも言われている。どちらにせよ何を考えているのかが分からない。 B美がぼくに話しかけてきた。
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