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十二月二十四日。
朝からクリスマスソングや讃美歌がテレビやラジオで流れ、街中がカップルや家族連れで賑わう、聖なるクリスマスイブの日。
そんなクリスマスイブも、聖なる日も関係なく、一台の車が、とあるビルの地下駐車場に入ってきたのだった。
「うわぁ、寒い! 着込んできて良かった」
「車に乗っていると気付かないよね。俺も着込んできて良かったよ」
人気アイドルユニットである「IM」の二人は、事務所ビルの地下駐車場に車を停めるとエレベーターに乗り込む。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。IMの出島颯真と、茂庭光です」
寒いからか、珍しく誰も見張りが立っていないエレベーター前の守衛室に声を掛けると、中から慌てて年配の警備員が出て来る。
「あれ、出島さんと茂庭さん。今日は早いね」
「今日から俺も光の学校も休みなんです。なっ、みつ……光?」
「はい。そうなんです」
「それはいいね〜。こっちは年末年始で業者の出入りが激しいのに、オレしか雇われていなくてね……」
いつ来ても同じ警備員にしか会わないと思っていたが、まさかそんな事情があるとは知らなかった。
一人しかいない警備員から、二人は入館許可証を発行してもらう。
「こんな日に仕事とは難儀だね。まあ、それはオレもか!」
ワハハと笑う警備員に見送られて、二人はエレベーターに向かう。
「ごめん。水月って言いそうになった」
「気にしないで」
二人はエレベーターに乗ると、三階で降りる。
連れだってロッカールームに入ると、空いているロッカーを開けて荷物を入れたのだった。
「ソウくん、先にお手洗いに行ってきてもいい?」
「うん。ここで待ってる」
そそくさと出て行った水月を待っていると、入れ違いによく似通った声の二人組が入ってくる。
「今日のレッスンおかしいだろう! 絶対、筋肉痛になるよ!」
「帰ったら、ゆっくり休もうね」
「せっかくのクリスマスイブだっていうのに……」
「先輩方、お疲れ様です」
ロッカールームに備え付けのベンチに座っていた颯真は立ち上がると一礼する。
「颯真じゃん。これから仕事?」
「はい。これから、光と一緒に撮影があるんです」
声を掛けてきたのは、同じ事務所の先輩である三嶋輝と、翼の双子であった。
「そっか。ぼくたち、今日はレッスンだけなんだ。再来月のライブに備えて、新曲の振り付けの練習」
「いつもの振り付け師じゃないからレッスンがキツくてさ〜。嫌になる」
同じ顔をして、同じ様な声で話しても、ベンチに座って「疲れた」と言っている兄の輝。
自分のロッカーを開けて、「シャワー浴びて帰ろうかな」とタオルで汗を拭いている弟の翼。
全く違う双子に、颯真は気になっていた事を尋ねたのだった。
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