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そもそも私は、先輩以外の人に口説かれても、靡かない自信がある。ていうか、一番褒めてほしいのはこの人だ。
先輩に褒めてもらえるなら、他の人の言葉なんていらない。
でも、それを伝える勇気はない。
「ちなみに」
「…うん?」
「狩野さん、マジで酒豪」
「えっ」
「…ほら、喜んでんじゃん」
「え、いや、これは…」
しまった。昨日たらふく飲んだはずなのに、やっぱりお酒に反応してしまった。
でもこれは決して喜んでいるわけじゃなくて、ただ少し、狩野さんとお酒の話をしてみたいなって思っただけだ。
だって狩野さんが酒豪だなんて知らなかった。今度さり気なくオススメのお酒教えてもらおう。
「……お前ほんと腹立つな」
「な、何でそんな怒ってんの」
「……別に」
私の髪から手を離した先輩は、はあ、とさっきより大きい溜息をつく。そしてそばにあったスツールに腰掛けると、不貞腐れたような顔で頬杖をついた。
「狩野のこと、ホタテに見えてきた?」
「み、見えるわけないでしょ。ホタテ君に一番近い男は先輩だよ。だから安心して!」
「安心って………お前ほんとアホだよな」
ふっと吹き出すように笑った先輩は「とりあえずアイツ先月三股かけてるのバレて刺されそうになったらしいから、あの男だけはやめとけ」と、狩野さんを平気でアイツ呼ばわりする。
でも私はそんな狩野さんの情報よりも、ころころと表情を変える先輩から目が離せないでいた。
さっきまで不機嫌そうにしていたのに、急に笑うなんて反則だ。私はその笑顔に弱んだから。
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