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「…なに笑ってんの」
「えっ」
どうやら無意識に口元が緩んでいたようで、先輩に突っ込まれてハッと我に返る。
でも仕方ないじゃん。来てくれないかなって思ってたら、本当に来てくれたんだもん。こんな奇跡、にやけずにはいられないよ。
ドキドキするのに安心する。先輩の横は、やっぱり落ち着く。さっきまで色んな人に質問攻めされていたから、余計にそう思う。
この人の傍にいる時に流れる空気が、私は好きだ。
「どーせ皆にチヤホヤされて喜んでんだろ」
けれど、先輩は私と反対で少し不機嫌そうだ。やっぱり二日酔いなのかな。日本酒飲ませたせいかも。何だかいつもより疲れているようにも見える。
ていうか、先輩が紡いだ言葉の意味がよく分からない。
「…チヤホヤなんてされてないし」
確かに褒めてくれる人はいっぱいいたけど、別にそれはチヤホヤされているわけじゃなくて、ただ地味子からのギャップが凄かったから反応してくれただけで。
褒め言葉は全部お世辞だってことくらい、ちゃんと分かってるのに。
「さっき狩野さんに口説かれてたろ」
「あれは口説かれたうちに入るの?」
「入る。あの人マジで見境なく女に手ぇ出すこと分かってんのか?」
「分かってるよ。てかその情報、会社の人全員知ってるじゃん」
狩野さんというのは、さっきオフィスで私にタイプだと言ってきた営業部の先輩のこと。
彼は誰にでもそういう台詞を吐くことを知っている。だからさっきも特に心には響かなかった。
それなのに先輩は、私が真に受けていると思っているのか、毛先で遊びながらも「どーだか」と、冷たく放つ。
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