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晴れ渡った空の下、母さんの手入れがなくても、庭の花々は今も美しかった。臙脂色のハナミズキや芝桜が穏やかな風に揺れ、夏は越せないと言うアリッサムや忘れな草も、少しは生き延びている。
庭に出てみようと、わたしは思った。手にしていたビトちゃんは、花音の胸に横たえる。
花音はビトちゃんを欲しがって、暴れたことがあった。それでもビトちゃんを傷付けられそうで、わたしは花音の願いを拒むしかなかった。
もうビトちゃんも傷付けられたりはしない。ううん。今なら、大事にしてもらえるだろう。
立ち上がって、わたしは掃き出し窓に近づいた。ふと白い花が目に入った。そう言えば、あの花の名を聞かれたことがあった。
「茜……さん」
弾かれたように、わたしは振り向いた。妹は半身になっていた。ビトちゃんを痛いほど握りしめて、わたしを見つめている。
「……茜……さん……」
もう一度、涙が溢れた。でも拭った。何度でも拭った。まだ胸の奥は痛い。でも泣いてはいけない。このコの前で泣いてはいけない。だから泣かない。笑う。
「聞かれたでしょ?」白い花を指差しながら、わたしは言った。「あれね、スノーフレークって言うの」
- Fin -
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