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遭遇
アカネが転移した先は薄暗い場所だった。
アカネは依然として全裸のままだった。
「ひどいわ、裸でこんなとこに来させるなんて。どこかに着る物はないのかしら? このままだと風邪引くじゃない」
キョロキョロと辺りを見回すと自分は通路にいるようだ。天井があり、太陽の光が入って来ない。どうやら迷宮に入り込んだようだ。
通路の先を目で追うと途中で十字路になっていた。
「ここはどこなのかしら?」
さらに進んで行くとまた分岐していた。
「まるで迷路みたい。早く外に出たいから出口を探さないといけないわね」
そう言ってどんどん進んで行くアカネだったが、眼の前に何かがいることに気付いた。
小柄な人影がこちらへ近づいてくる。
アカネは警戒されないよう先に話しかけた。
「すいません、ここはどこですか? 私、道に迷ってしまって・・・」
こちらからは距離と暗さのせいではっきりと相手の容姿を確認出来なかった。
徐々に距離が近づき、明かりに照らされて次第に容姿が見えてくる。
肌は緑色で上着を着ておらず、腰にボロボロの布を巻いている程度で上半身裸の状態だった。
片手に木のこん棒を持っている。
「ギギギ・・・」
「えっ? 人じゃないっ! あれはもしかして、ゴブリン?」
アカネはゴブリンを見ると息を荒々しくしていた。
「ギギャ~・・・、ギギャー・・・・」
「えっ、もしかして興奮してるの? でも何で? あれ? もしかして、私が裸だから欲情してるとか?」
「ギギャーッ!」
ゴブリンは奇声を上げながらアカネに襲い掛かる。
「いやっ、こっちに来ないでっ!」
アカネは逃げ出した。
ゴブリンはいやらしい下卑た笑みを浮かべながらアカネを追いかける。
「武器も無いのにどうやって戦えば良いのよぉ〜」
アカネは涙目になりながら必至に走った。
通路を走ったり、小部屋に入ったり、交差点を駆け抜けたりしながら、必死に走った。
「はぁっ、はぁっ、それにしても本当にしつこいわ〜。そんなに私を捕まえたいの?
もし捕まったら何されるか想像出来るし〜、絶対に捕まりたくないよぉ〜」
幸い他のゴブリンには出くわさず、なんとか私を追っているゴブリンと一定の距離を保っている。
「何とか逃げているけど、時間の問題だわ。何か手は無いのかしら? 困ったわ・・・」
その時、アカネの頭に聞いたことのない声が響いた。
〈おい、女、助けてやろうか?〉
「えっ! 誰なの?」
アカネは辺り見回したが、誰の気配もない。
どこかから男の声が聞こえてくる。
〈俺は別に怪しい者じゃねえよ。ただ困っている奴を放っておくことが出来ないだけだ。もし、困ってるんだったら俺が助けてやろうか?〉
「ホント? 助かる。お願いするわ」
〈分かった、じゃあ次の交差点を右に曲がってくれ〉
「オッケー、右ね」
〈真っすぐ進んで、小部屋に入ってくれ〉
「分かったわ、今、小部屋に入ったわよ。 行き止まりっ!?」
〈大丈夫だ、そこに秘密の扉があるから、そこで『聖女シルヴィアが命じる。開門せよ』と言って〉
「分かったわ。『聖女シルヴィアが命じる。開門せよ』」
〈アカネ、危ないから後ろに下がっていてよ〉
「え? 危ないって何があるのよ」
アカネはぶつぶつ言いながら一歩後ろに下がる。
〈少し待てば分かる〉
数秒するとゴゴゴゴ・・・と音がして壁が動き、通路が出来た。
「うわぁ凄い、隠し通路が出て来たわ」
〈じゃあ、次はその隠し通路を進んでくれ〉
「うん、分かったわ」
「ギギャーッ!」
「えっ! もしかして追い付かれたの?」
〈急げ、早く奥に入るんだ!〉
「ええ、分かったわ。また小部屋に着いたけど、また行き止まりだわ。
それに、さっきの部屋よりも狭いから、逃げ場所が無いわ。
どうしよう、このままだとゴブリンに捕まっちゃうわ」
「ギギ・・、グギギギ・・・」
〈落ち着け、部屋の奥に何かないか?〉
「えっ! ん~と、大きな石に剣が刺さってるわ!」
〈それが聖剣だ。それを早く抜くんだ!〉
アカネは刺さっている剣を見たが、疑問に思った。
ただの剣ではなさそうだ。一流の戦士が使う程の凄そうな剣だという事が素人のアカネにも分かる。
しかし、この剣は禍々しく少し危険な臭いがするのをアカネは本能的に感じた。
「聖剣ってもっと神々しいものだと思ってたわ。これはなんと言うか禍々しい感じがするんだけど・・・。それに御札みたいな物が着いてるわ」
「その御札を剥がせば簡単に抜けるから、早く抜いてくれ」
アカネは抜くかどうか迷っていた。
ゴブリンはアカネが逃げないよう入口に立ち塞がり、様子を伺っていたが、
じわじわと追い詰めるようにアカネに迫っている。
「ギギギギ・・・・」
〈どうしたんだ? 早く剣を抜け、そうしないと殺されるぞ!〉
「え~い、もうどうにでもなればいいわっ!」
アカネは御札を剥がし、剣を抜き取った。
<スケルトンキングの魔剣に呪われました>
〈スケルトンキングの魔剣の効能によりユニーク職業とユニークスキルが開放されました〉
「えっ? ちょっと聖剣じゃなくて魔剣じゃないっ!」
「クハッハッハッハッ! 引っ掛かったな。これでお前と俺は一心同体だぜ!」
今迄は脳内に声が届いていたが、剣から直接声が聞こえている事にアカネは気づき、声の主がこの剣である事をアカネは理解した。
「酷い、私を騙したのね」
「まぁそう怒るなよ。お前を助けるためには必要な事なんだよ」
「本当に必要なの? 呪われたから、逆に状況が悪くなってる気がするわ!」
「大丈夫だ。俺がいれば、もう安心だぞ」
「何が大丈夫なの? 全然状況が良くなってないけど?」
「ギギャーーーッ!」
「きゃあっ、襲い掛かって来たわ」
「アカネ、剣を上段に構えるんだ。俺が合図したら振り下ろすんだ」
「ええ、分かったわ。やればいいんでしょ」
「ギギャッ」
「今だっ! アカネ!」
「えいっ!」
ズシャッ!
「えっ? 剣一振りでゴブリンが真っ二つになるなんて凄い切れ味ね」
「へへん、そうだろうよ。俺様はその辺のナマクラとは違うからな」
<レベルが上がりました>
〈初級剣術 Lv1を取得しました〉
「ん? 今レベルが上がったっていう声が聞こえたわ」
「ああ、それか。ステータスリードって言ってみろ」
「ええ、分かったわ。ステータスリード。」
LV 2(1up)
HP 26(2up)
MP 6(1up)
攻撃力 6(1up)
防御力 3
体力 5(1up)
すばやさ 7(1up)
かしこさ 4
魔力 2
スキル
気温耐性 Lv1
初級剣術 Lv1
ソールスティール
ソールオペレーション
職業 ソールマスター
状態 呪い:スケルトンキングの魔剣
効果:衣服を身に着けることが出来なくなる。その代わり気温耐性スキルを使用出来るようになる。職業がソールマスターになる。
加護∶案内人の加護
「気温耐性? そういえばさっきと比べてあまり寒く感じなくなったわ。それに
初級剣術スキルが身についてるのね。
剣の使い方が頭に入って来たわ。
えっ? 今とんでもないものを見付けてしまったわ。案内人の加護っていう称号も気になるけど、呪いの効果で衣服を身に着ける事が出来なくなるって何っ? 私に一生裸でいろって事なの? そんなの酷すぎるわっ! なんて事してくれたのよっ!」
「でも、俺が助けなかったら、今頃ゴブリンの慰みものになってたのかもしれないんだぞ。それでも良かったのか?」
「うっ、それはそれで嫌だわ・・・」
「だろ? 俺はアカネの恩人なんだから、むしろ感謝して欲しいくらいだぞ」
「・・・ええ、まあ~、分かったって事にしておくわ。でも、いつか呪いは解くけどね」
「そんな、俺を捨てるつもりなのか? ヒドいじゃないかっ!」
「いや、そうしないと一生裸で過ごさないといけないのよ。私・・・」
「裸で過ごすくらいなんだよ。俺だって戦う時は鞘から出て裸なんだぞっ!?」
「何言ってんのよ。物と生き物を一緒にして欲しくないわ」
「呪われる代わりに気温耐性のスキルが身に付いたんだからいいじゃないか、寒く無いんだぞ?」
「あのね、寒い寒く無いだけの問題じゃないのよ。恥ずかしいし、世間体の問題もあるのよ。だから、アナタが何を言ってもこの迷宮を出て安全な町に着いたら、まず最初に呪いを解くわよ」
「そうなのか、じゃあ仕方ないな・・・短い付き合いかもしれないけどよろしくな・・・・・」
「ええ、分かったわ。意外とすんなり受け入れたわね。もっと必死に反対されるかと思ったのに・・・」
「しょうがないだろ。だって俺は呪われた武器なんだから、不要になれば捨てられる運命なんだよ」
「捨てられる事になっても私を恨まないでよね」
「そんな恨むなんてしないよ。呪いが解かれたら諦めて捨てられてやるよ」
まぁ、呪いが解けたらの話なんだけどな・・・、クックックッ。
「そういえば、さっき直接頭にアナタの声が聞こえたんだけど、あれは何だったのっ?」
「ああ、それか。それは念送というスキルだ。声を出さずに思念を送って意思疎通が出来るようになるのさ」
「へぇ〜そんな便利なスキルがあるのね」
「ああっ、あると便利なんだぞ」
「ところでアナタ、何て呼べばいいの?」
名前か・・・、本名を名乗るのも良くないな。
何しろ、元魔王軍の四天王ガイオス・デスロード・ヴィルゴッドだから人間に素性がバレると面倒臭いことになるからなぁ〜。
「俺はスケルトンキングの魔剣と言われているらしいが、好きに呼んで良いぞ」
「分かったわ。じゃあ、スケキンね。私の名前はアカネよ」
ネーミングセンス無さそうだが、仕方ないか・・・。
本名がバレるよりましだしな・・・。
「ああ、これからもヨロシクな。アカネ・・・」
「ええ、ヨロシクね♪ スケキン」
末永い付き合いになると思うからな♪
スケルトンキングの魔剣はニヤリと心の中で笑った。
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