序 章『迷える心』

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「好江さんを通して来た話なんだよね?」  そう問われて私は、うん、と頷く。  滝山好江さんは、オーナーの恋人であり、美術系のコンサルタントの会社を経営している。それ以外にも好江さんは一級建築士で、建築デザインなども請け負っているそうだ。 「結構前の話なんだけど、利休くんのお祖父さんの家に鑑定士が集まったことがあってね。そこに、ニューヨークでキュレーターをしている藤原慶子さんって方が来ていて……」  利休くんは、好江さんの息子だ。  すると香織は、ああ、と相槌をうつ。 「鷹峯の斎藤邸で開かれた、後継者選びの時やね」  そう、と私は頷いた。  思えば香織との付き合いも長く、これまであったいろいろなことを彼女に伝えてきているので話は早い。 「その慶子さんの師匠が、サリー・バリモアという美術界の権威なんだけど」  香織は、そんな人がいるんや、と洩らす。  私も名前を聞いたことがあるくらいのものだった。  その後調べてみたところ、サリーは、メトロポリタン美術館(通称The Met)で、何年かチーフ・キュレーターを務め、その後はフリーとなったそうだ。ちなみに、フリーランス・キュレーターは、インディペンデント・キュレーターともいうらしい。  世界中の美術館や展示場を回り、企画・提案・プロジェクトの監督などを行っている。  そんな彼女には弟子――アシスタントが数人いて、藤原慶子さんもその一人だそうだ。 「サリーは先日、男性のキュレーターから『この世界に女性なんていらない』って言われて激怒したそうなの」  そこまで話すと、香織は呆れたように息を吐き出す。 「そういう感じの人って、どこにでもいるんやね」 「本当だね……」  私も苦々しい気持ちで、頷いた。
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