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なにか大きな変化がないだろうか。蓮は探り探りジェイと話をしていた。
「蓮、さっきから変だよ。どうしたの?」
「変?」
「だって、かのちゃんやかづくんや和愛ちゃんの話したと思ったら、塚田さんとか友中先生とか」
ぎくりとした。最近のジェイは冴えている。
(違うか、俺がぼんやりしてるのか?)
「ばらばら、だな、ほんとだ。悪い、考え事しながら喋ってたらしい」
「疲れたんでしょう、サンルームと行ったり来たりで」
「その程度たいしたことじゃないよ。今日はテレビでも見るか」
「ほんと!? え、いいの?」
ここに来て一度もテレビを見ていない。
「いいさ。眠くなったら眠るし。家事があるわけじゃない、仕事があるわけじゃない。のんびりしてるだけなんだから。……今ならダメ人間になれそうだ」
ジェイはダメ人間の蓮を想像して笑ってしまった。
「何笑ってるんだ?」
「ダメ人間の蓮、想像したの」
「どうだった?」
「掃除しながら『ダメ人間になる!』って言ってる蓮が浮かんだ」
「俺はダメ人間にもなれないのか?」
「うん。無理だと思う」
蓮が拳骨を握ったからジェイは笑いながらテレビのスイッチを入れに行った。そのまま立っている。
「どうした?」
「あのね! うちにあるオンラインの映画、あるでしょう? ああいうのが見れるみたい!」
「そうなのか? それ、助かるな! そろそろ退屈になってきそうだ」
(退屈って…… 蓮、もう動きたくなってるってことだよね。サンルームでも言ってたし)
それなら回復に向かっているということだ。しんみりすることもいつの間にか少なくなった。笑顔が笑顔らしくなってきた。目が覚めれば座ろうとする。
(良くなってる。うんと良くなってる!)
説明書とリモコンを蓮に渡した。
「うちのとちょっと違うな。でも新作の洋画だいぶ入ってる」
「何見る? コメディはやめようよ」
「なんで? お前好きだろう?」
笑うことは体力のいることだと思う。まだ早いような気がした。笑って疲れてほしくない。
「ね、サスペンスは?」
(お前とサスペンス見るとハラハラするんだけどな)
そう思ったが、ここにはハラハラする素になるもの、つまりスナックとジュースが無い。
(そう言えば欲しがらないな、お菓子とかデザートとか)
ジェイはすっかり忘れている。これは普通に忘れている、蓮の看病をしたくて。
「じゃ、サスペンスにしよう。どれにするか?」
知っている俳優、あらすじ、そんなものを見ながらああでもない、こうでもないと選ぶ。
「こっちがいいのに」
「この後だって明日だって見れるんだぞ。いいだろ、俺の見たいの優先しろよ」
ジェイはそれを聞いて嬉しくなってしまった。
(俺を優先しろって、そんなこと言うの初めてだね!)
蓮の何気ない言葉がジェイを幸せにする。
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