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アイツの目の前で、チケットを破り捨てて、
終わらせる──それができないから、逃げたのに。
簡単に消えてなんかくれない、
消させない、そういうように頭の中でわたしを想ってギターをかき鳴らす姿が映し出されて、優しく笑う。
いつまでも、あの歌が、その声が、その言葉が。
ちっとも離れようなんてしてくれないのだ、
どこにいても、どれだけ世界が違うと不安になっても。
着信拒否にしたあの、
わたししか知らないメロディーが、
それに合わせて恥ずかしそうに歌う表情が、
ぜんぶ、ぜんぶ。
「深咲が、すきだ」
ただまっすぐ、
目の前にいないのに、普段絶対言ってくれない言葉を落とした。
それが、悔しくて。
声にならない息を吐きだしたら、満足そうに向こうが笑っていた。
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