愛の解

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「男の人を好きになりたかった」  私の目の前に彼女がいる。 「でも無理だった」  彼女は制服姿で、屋上に佇んでいた。 「どうしても女の人しか好きになれなくて、勇気を出して告白したの。そしたら学校中の除け者になっちゃった」  バカだよねぇ、と軽く笑い飛ばす。それが痛みを堪えているようで、やるせない気持ちが生まれた。 「なら、なんで私に声なんか掛けたの? 同じことになるって考えなかったの?」 「好きだったの」  一目惚れだったんだよ、と諦めたように彼女が笑う。 「一年生の時から好きだった。友達になれただけで満足してたの。このままずっと、高校卒業して友達が続けばいいなって、ただそれだけだったの」  私は、震える彼女の手を握った。温度を感じないはずの互いの手は、どこか温もりがある気がした。 「裕貴ちゃんが女の人が好きだって知った時ね、やったって思った。私のことも好きになってくれるんじゃないかって期待したの」  男にはうんざりしていた。顔目当ての奴ばっかりで、誰も私のことを見てくれない。痴情の縺れに巻き込まれるのもうんざり。あっちが勝手に惚れただけで、こっちは顔も名前も知らないのに。  恋なんか絶対にしない。私は一人で生きていくんだ。そんな風に考えていた。  でも、私は好きになった。どうしようもなく好きになってしまった。  後追いしてしまうくらい、愛してしまった。  彼女が俯く。私は自分の体を、彼女に寄せた。肩と肩が触れ合う。胸と胸が押し合う。 「綺麗に死んでほしかった。好きな人と結婚して、子供産んで、孫が生まれて、おばあちゃんになってほしかった。それをずっと隣で見ていたかった」 「今の私は綺麗じゃない?」 「ううん」  顔を上げた彼女の手が、私の頬を包むように挟む。彼女は柔らかく顔を綻ばせた。 「どんなりえちゃんも好き」 「私も好き」  二度と離れないように、私達は抱き合う。下の喧騒は、ここまで届かない。 「もう離れないでね」 「うん」  離れないで。一人にしないで。捨てないで。いなくならないで。  体が透けていくのが分かる。彼女の腕が私の背中に回った。 「あのね、わたしの未練は、りえちゃんだよ」 「私の未練は、裕貴ちゃんだよ」  屋上の扉が開かれた。そこには靴が一つ、フェンスの向こうに置かれているだけだった。
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