砂浜に残されし二通りの足跡

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 藤田は有数な大会社の社長の長男だった。その座を受け継ぎ、親の七光りで輝き続け、父親に頭が上がらなかった。何しろ父親はベンチャー企業を立ち上げ、あれよあれよという間にその規模を拡大したカリスマ性があり父親の自己啓発書を読んでも経営マニュアル書を読んでも首尾一貫筋が通っていて説得力があり納得させられ自ずと父親の言うことは全て絶対的なものとなるから藤田は結婚する時も本命の女がいたのだが、そんな凡人の子は話にならないと反対した父親が勧める令嬢を選ばなければならなかった。  父親の狙い通り良家と結びつくことで藤田家は経済的に恩恵を与って益々栄えたが、妻の幸代に対する藤田の不満は解消されないのであった。何しろ彼はボンボン育ちではあるが、父親に不肖の子と見縊られていて確かにいつも意識する父親より商業的には劣っているから敗北感を覚え、敗者の気持ちが分かるし、倫理的には勝っているから敗者を思いやることも出来るのに対し、幸代はお嬢様育ちな上に美貌の持ち主なので、そんな生まれつきにありがちな高慢で常に勝ち誇った態度を示し敗者の気持ちが分かる訳がないから無論、敗者を思いやることも出来ないのである。  また、幸代は生まれてこの方、実に恵まれているようであるが、それは物質的にだけであって何不自由なく育ち苦労を知らないから苦労人の作り出す芸術性について何も理解できないし滋味できない、となると、芸術だけでなくあらゆる分野の彫心鏤骨して生まれた奥深い面白味や味わいも理解できず滋味できないから実に心は貧しいのである。しかし、神社仏閣名所旧跡巡りや美術館や劇場やミュージックホールに行くと、子供みたいに喜んで分かったような顔をして嬉々としているのである。それは勝ち気で見栄っ張りだからそうするのであって人一倍装飾好きで美食家でもあるから満足する為には金に糸目をつけない。
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