抱くことのできない子ども

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
“二人”がこの星に降り立ってから長い年月が過ぎた。 母星からやって来た者たちだけでなく、二人の”子どもたち”も数を増し、星は動植物にあふれた。 いつのまにか、母星から来た者たちは草花や樹木を生み出す者たち、獣や魚、虫を生み出す者たちといった集団に分かれて、役割を果たすようになっていた。 最初に星に降り立った二人は、自分たちの似姿の生き物を特に産み育てる使命を持つようになっていた。 ”彼女”は、かつて星に存在した生物の情報を取り込んだり、他の生き物を生み出す集団の情報を得たりして出産をくり返していた。 「ねえねえ、かわいいでしょう」 そう言って、鋭い歯や嘴や爪を持った二足で歩く生き物に傷を負わされ、白い肌を血に染めることはしばしばだった。 「君は馬鹿だなあ。子どもたちに生き物の情報を盛り込むのはやめろよ」 ――しかし、なぜか彼女は懲りなかった。 俺は思った。 二人の最初の子どもは三歳で行方不明になった。全身が緑色で、背中に平らな石のようなものの並んでいたあの子どもへの思いが、彼女をこうした行動に駆り立てているのではないかと。彼女は奴を失った当初は呆然として泣き暮らしていたが、諦めがついたのか、ある時期から生殖に励んでいた。 ある春の日、小さな花弁が光のかけらのように舞い散る木々の下で二人は寄り添っていた。やはり光を受けて輝く大きな羽を持つ虫が、ゆるやかに羽を動かして飛び来たり、彼女の指先に止まった。俺は、美しいこの花と虫が好きだった。 「この花と虫よりももっと強く光輝く子がこの中にいるからね」と言って、大きな腹に手を当てて俺を見た彼女は微笑んだ。 腹の子の出産の頃に彼女の姿が見えなくなった。心配になって探した俺は、川べりで光る物体と、その横でぐったりとなった彼女を見つけた。――光る物体に近づくと、それは熱を持っていて、炎の赤児であることがわかった。彼女の肌は至るところ焼けただれていた。 「ごめんなさい……言うこと聞かなかったからこんなことになっちゃって……この子……やっぱり……かわいくないかな……」 俺は彼女を抱きかかえて大声で名前を呼んだが、すでに息絶えていた。 傍で赤児は轟々と熱をたぎらせて燃え輝いていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!