その1 経緯

1/1
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ

その1 経緯

 毎日続くモラハラとパワハラに押しつぶされ、私は会社を辞めました。  よっぽど目障りな社員だったのでしょう。  辞めて欲しいのなら直接そう言えばいいのに、なぜあんなクドクドと……。  まあ、そんな事を言っても愚痴になるだけですので、詳細は私の胸にしまっておく事にします。  正直、辞表を叩きつけた後の私にはもう働く気力なんて残っていませんでした。  出来る事なら、全てを放り出して放浪の一人旅にでも出たい気分。  でもそれは『不要不急の外出』になってしまうし、その前に一人娘が大学の推薦を控えた大切な時期でした。  世帯主が無職って訳には行きません。 「ハア、また仕事を見つけるしかないのか」  そう呟いて溜め息をつきましたが、塞ぎ込んだ気分で慌てて職探しをした所でろくな結果にならない事は、その職場で思い知らされました。 「どうしたらいいだろう」  私は何気なく近所の神社に参拝しました。  都会の雑踏を離れた静かな境内で手を合わせていると『早い者勝ち』という言葉が頭の中に響きました。 「早い者勝ち?」  その神社は私に合っているのか、時々そういうインスピレーションの様なものが降りてきます。  私は少し考え、こう解釈しまいた。 「そうか。前回の転職は選び過ぎて失敗したんだ。じゃ、今回は選ばないで、最初に採用してくれた所に決めよう。きっとそれが『神様が与えてくれた仕事』のはずだ」  そして私はすぐに転職サイトにプロフィールを登録しました。  すると翌日、  三社からオファーが来ました。  大手スーパー流通センターの管理、警備員。そしてタクシー会社。  それぞれから面接の日時を取り付け、後日一番最初に面接をしたタクシー会社『S交通』から採用の知らせが来ました。 「採用します。気持ちに変わりはありませんか」  そこは第一希望ではありませんでしたが、神様の言葉『早い者勝ち』を思い出し即答しました。 「ありません。よろしくお願いします」  そして他の二社の面接は辞退しました。  それを嫁に言うと、こう言って来ました。 「ドライバーなんて、あんた絶対無理だよ。増してや接客なんて出来る訳ないでしょ。短気だし」  と罵られ……、じゃなかった、叱咤激励されましたが、自分が決めた事だと、その採用通知を受け入れました。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!