セルジの花と共に贈る

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「レティシア。お前に縁談がある」  朝食に同席したタイミングでお父様がそんなことを言った。 「クラスフェルト卿の御子息でな。会ってみたいと」 「卿のお子で男子は三人。いずれの方と?」  お母様の言う通り、領主であるクラスフェルト伯爵家の子は男子が三人、女子が二人。長男、三男、次女は第一夫人の子で、長女、次男は第二夫人の子だったはず。 「三男のリュカ様だ。聡明なお方だ。レティシアとは歳もさほど離れていない」 「それは良いご縁ではありませんか」  お母様の言葉にお父様が深く頷いた。私も同意見。  このオリオール家は言わば成り上がりの家系。  優秀な魔術師を排出してきた家柄だけど、魔術を探究するというよりは魔術を振るうことに価値を見出してきた。その結果なのか、先先代は傭兵団の団長として戦場を駆け、秀でた魔術は戦況を変えることさえもあったらしい。  今、落ち着いて領主の膝下に居を構えているのは傭兵家業で稼いだ資金を元手に、血生臭い戦場から離れて商人へと転身した末の話。  オリオールが持つ魔術と富。これは大きな力だけど、それでは切り込めない領域がある。それが成り上がりである由縁。  子供ではないのだから、縁談の意味くらいはわかる。  クラスフェルト伯爵家が望んだのは、魔術師としてのオリオール家か、商家としてのオリオール家か。あるいは両方か。少なくともただ歳若い娘が欲しいだけ、という話じゃない。それならもっと後腐れない都合の良い家はある。そう思えるくらいには、成り上がりとはいえオリオールの家格は確かだった。 「お父様。縁談となりますと、私はまだ魔術が--」 「魔術の腕は気にしなくていい。素質はあるのだ。ゆっくりとやれ。先方もその事でとやかくは言わん」  首を振って答えたお父様が、それから満足を表す様に頷いた。 「だがそれとは別に、お前がオリオールの娘として自覚があることを嬉しく思う」 「ありがとうございます」 「あなた。予定はどのように? この子にも準備がありましょう」 「そうだな。先ずは五日後、リュカ様が当家へお越しになる。その後は何事もなければ、山脈に雪がかかる時節には式を執り行うことになるだろう」 「そうなりますと、喫緊で忙しくなるのは五日後のリュカ様のご来訪くらいでしょうか」 「すべてはそれからだが、その後も忙しくなるだろうな。侯爵家へ娘を嫁がせるのだ。半端はできん」  お父様の声が明るい。お母様もそれに引かれるように明るく笑う。  良家というのは勝手に存続していくものではなく、維持するために多方面で労力を割く。この縁談もその労力の内。まだ話が出ただけではあるけど、それでもお父様、お母様の安堵というものが理解できた。 「オリオールの娘として、期待に沿えるよう努めます」  これが家にとって良い話だとわかる。それに否を唱えるほどの理由もない。レティシアにとって素直に喜ばしい話だ。
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