しぶんぎ座の下で

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 数年前、僕は宇宙人と出会った。  それから毎年、宇宙人に会いに籠屋山(かごややま)に登っている。  1月4日の0時過ぎ。  しぶんぎ座流星群の極大期、1番星が降るタイミングにあわせて、僕は毎年正月休みを延長して籠屋山の天辺近くに登っていた。  しぶんぎ座流星群っていうのは北斗七星とりゅう座、それから牛飼い座の間を起点とする、北半球だけで観測できる流星群だ。だいたい1時間で20個くらい、多くて60個くらいの流星が見える。  近年僕は、宇宙人と一緒に宇宙を眺めるために、毎年籠屋山を登っている。僕には彼女もいなくて親しい友達も少ない。そんななんとなくパッとしない生活を贈る僕にとって、その不思議な登山が唯一の楽しみかもしれない。  僕が登るポイントまで天体観測に登る人はあまりいない。県を渡って縦走する人は多いけど籠屋山は急峻すぎて休めるところが少ない。第一近くに設備の整った安全な山がいくらでもある。それにここは登山道からも山小屋から外れている。ここは僕が見つけた特別な場所だ。  あれは何年か前にペルセウス座流星群を昼に観測しようと思って登ってた時だっけ。ペルセウス座流星群は夏のお盆前後に降る流星群だ。  当然ながら、肉眼では昼の流星群は見えない。でもその年のペルセウス座流星群の極大期は真っ昼間だった。だから僕は流星を目ではなく電波で観測する。  流星群は長い時間真っ暗な宇宙を巡ってた流星は、地球に突入するとき自らをプラズマ化して燃え上がらせながら、大気を電子とイオンに引き引き裂いて落ちてくる。つまり大気を電離する。  その瞬間のほんのわずかな時間に流星にむけて電波を飛ばせば、流星の電離で大気中に広がった電離柱に僕が放った電波がぶつかり反射して、僕のもとに帰ってくる。流星をただ見るだけじゃなく、僕が飛ばした電波を流星が打ち返す。  最後に地球にぶつかって炎になって消えてしまう。刹那い。それはなんだか長い旅をしてきた光が眠りに落ちる前に少し微笑みかけているようで、とても特別に思える瞬間だ。  流星電波観測では肉眼で光が見えないくらいの小さな流星でも反応するから、地球の表面で燃え尽きていく流星の数を数えて、墓標のように1つずつを記録に残す。  それで流星電波を観測するには高い山がいい。町中ではいろいろな電波が溢れてとてもノイズが多い。町中の電波は直進して雲や建物なんかの障害物にあたって反射する。でも籠屋山の山頂近くは大抵の雲より高くて電波が届きづらい。山の裏に回れば直進する電波も避けられる。  ノイズが少なければ少ないほど、星の消滅をきれいに観測できる。
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