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夜明けを告げるニワトリのように、人生の幕開けを告げる産声が室内に響き渡る。
しわくちゃな顔の男の子を僕は受け取り、一度頭を撫でてから妻に渡した。
彼女はその子を優しく抱きかかえて何度も撫でる。
その表情は、昔君に見せられた聖母マリア像の表情そのものだと思う。
◆
僕と君との出会いもこの場所だった。
君のお父さんが僕の研究に出資してくれて。
僕に多くのものをくれた。
僕もその期待に応えられていたと思う。
そんな僕の所に君は気まぐれに来て、気まぐれに僕を気に入って、気まぐれに僕と結婚した。
君の事を愛しているかと聞かれたら、正直よくわからない。
君だって、そうだろう?
僕には拒否する理由も、厳密には拒否する権利もなかった。
君は、色んな経験が研究に活かせる、なんてもっともな理由を付けて、君が行きたい場所に僕を連れて行ったね。
僕の研究はその時は少し滞ったけど、結局は君が正しかったと、今なら心から言える。
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