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教室へ入った途端、色とりどりの空模様が目に飛び込んでくる。
まるで夏のようなカンカン照りの陽射し、鬱陶しいほどに照り付ける太陽、初秋を感じる爽やかな風に、しとしとと静かに降る穏やかな雨。
ここは一体どこなのだろう? カオスだ。
「一華ちゃーん!」
クラスで一番仲のいい北川咲奈が、私を見つけるやいなや駆け寄って来る。
「おはよう! 体調はもう平気なの?」
「うん。ちょっと貧血だっただけだし」
「そっかぁ。でもまだ調子悪そう。あんまり無理しちゃダメだよ」
くりっとした大きな瞳で私の顔を覗き込み、咲奈はニッコリと笑った。
咲奈の天気はいつもどおり、ほんわかした小春日和だ。まさに今の気候そのもの。でも、いつもより少しだけ弾んでいる気もする。時折突風が吹き、桜の花びらが舞う、あの感じだ。
私は周りを見渡しながら、咲奈にそっと耳打ちした。
「ねぇ、皆どうしたの? なんかすごくソワソワしてるというか、浮かれてるっていうか」
そう言った途端、咲奈は「そうなの!」とすぐさま私の言葉に同意する。いつもおっとりした咲奈でさえ、ワクワクしたような目をしていた。
一体何だろう? 女子はほぼ全員が陽気な天気で、男子はそれよりちょっと複雑だ。女子と同じく青空の子も多いけれど、中には天気雨だったり、どんよりとした曇り空だったり。
*
私には、その人が今抱いている気持ちが見える。心が読めるとかそういう類のものじゃなく、それはそれはおかしな見え方なのだ。
その人の今の気持ちが空模様、つまり天気として見える。どこに? その人の頭上に、だ。
つまり、今教室内にいるほとんどのクラスメートたちの気持ちは、真夏のハワイのようにギラギラ、ウキウキ、楽しいことでいっぱい、という感じ。一部、どんよりした曇り空の男子がいるけれど、彼らは若干の不安を感じているのだろう。
いつもはもっと皆がバラバラの空模様だ。それも当然の話で、人それぞれに気持ちの浮き沈みがあり、その時の事情もある。でも今は、いつもより全員の天気がまとまっている。ということは、全員共通の関心事がある、ということで──。
「実はね、今日うちのクラスに転校生が来るんだって!」
「……なるほど」
「ちょっと一華ちゃん! もっとビックリしてもいいんじゃない? 転校生だよ? しかもこんな時期に。そしてそれを知らされたのは昨日なんだよ? 私たち、本当にビックリしたし、大騒ぎだったんだから! 昨日お休みしてた一華ちゃんなんて、もっとビックリしてもよくない?」
咲奈の言うとおり、私は昨日学校を休んでいた。偶に貧血がひどい時があり、昨日がそうだったのだ。
「しかもねぇ~、その転校生って……」
「男子?」
「もー! なんで先に言っちゃうかな? そしてなんでわかっちゃうのかな!?」
咲奈は首を傾げているけれど、この様子を見れば嫌でもわかる。女子のワクワク感が半端ない。これはもう、かっこいい男子を期待している以外ありえない。
「だって、女子の目の色が違う」
「う……それは言えるね」
「イケメン来い、来いって念が見える」
「うわぁ、確かに」
一部の男子が曇り空なのは、イケメンが来てしまったら女子の関心がそっちにいってしまうから嫌だなぁってところだろうか。
それにしても、この時期に転校生なんて珍しい。今は五月も下旬、両親の仕事の関係でもなさそうだし、前の学校で何か問題でも起こしたとか?
そんな不穏なことを考えていると、予鈴が鳴る。うちの学校は朝にHRがあるので、すぐに担任が教室へ来るはずだ。
「皆、席について!」
クラス委員長が声を張り上げる。皆は騒ぎつつも一応言うことを聞く。そうしないと、委員長が怒鳴り出すことを知っているからだ。
彼は責任感が強いせいか、いつもピリピリとしている。頭上の天気も常に厚い雲に覆われていた。怒鳴っている時には稲妻が光り、ゴロゴロピシャンと雷が鳴っている。
眉間に皺が寄り、それがよけいに彼を気難しく見せている。笑えばそこそこ顔立ちは整っているというのに、もったいない。まぁ、そんなことはどっちでもいいんだけど。
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