例えば、桜の下に死体が眠るように

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例えば、桜の下に死体が眠るように

 一年に数回、雪の降る日があった。  それは桜が流れる春の小川に、雨に濡れた紫陽花。あるいは夜明け、オリオンが囁く真夏の空に。  季節を選ばず、この街には雪が降る。  生まれた時からか、それとも生まれる前からのことだったのか。僕らは季節外れの雪に順応して、ただ成り行きを空に任せた。  悲観的にならないまでも、ある種「仕方のないものだ」と不気味な諦念に寄り添って息をした。  そうしていつも気が付けば、雪は止んでいる。  ──青空に一番近い場所  そんなものがあるとしたら、それは桜が咲き誇る樹下なのだと、みんなは言う。  僕はその噂が嫌いだ。  これから僕が話すのは、雪の降る日に桜を探すような馬鹿げた一夏の話だ。  この物語には、どうしようもなく矛盾してしまった者だけが登場する。  夏に雪が降る街も、雪の中で満開の桜を探す理想主義者も。善良な不良や、無知な物知りだってそう。  すべては、雪に桜の花弁が混じった日から始まる。
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