あわ恋

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 その子を見たのは試験会場だった。  私立大鳥池高等学校は県内では中堅クラスの学校で、比較的自由な校風で知られていた。  第一志望の進学校受験を進路指導で〈無謀〉と評価されたが、あきらめがつかずに意地を通すことにした。ただ、様々な事情を考慮して、滑り止め的に別の高校を受験せざるを得なかった。それで選んだのが、大鳥池だった。  偏差値的には安全圏と思われ、よほどのポカをしでかさない限り、落ちることはないと踏んでいた。だから他の受験生には悪いが、気持ち的には余裕をもって試験会場に入ることが出来た。  席についても周りの様子を観察する位のゆとりがあった。  大半の受験生が参考書を広げている。確認をしているのか、眺めているだけなのか、遠目では判断がつかない。中には参考書に目を通した事で、逆に自信を失ったのではないかと思われる人もいる。参考書を出さないのは少数派だ。金縛りにあったように蒼白い顔で硬直する者あり、余裕なのか諦めなのか瞑目して時を待つ者あり。観ているとなかなかに面白い。  そうこうする内に、ふわりと優しい香りが僕の鼻先をかすめ、空いていた隣の席にセーラー服姿の子が座った。
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