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新しい場所
運び込まれた幾つかのダンボールと
なんの配置も考えずに
とりあえず置いて貰った少しの家具達。
窓を開けたら
道路を挟んで向こう側
小さくも無く
大きくも無い公園が見える。
そしてこのマンションを囲むように
モクレンの木がぐるっと植えられていて
契約前の見学に来た時はハクモクレンが咲き
今は紫色のモクレンが咲き始めていた。
今日からここが私の家。
──どうか、もう何事も無く
普通の毎日が送れますように。
そう願うのには理由があって
ここに引っ越して来たのも
その理由のせい。
1年程前から
常に誰かの視線を感じるようになって
それから
干してた洗濯物が失くなり
捨てたゴミが漁られ
ポストの中に
送り主も消印も無い手紙が入っていたり
そんな事が続いて怖くなり
周りの勧めもあって
警察に相談をしたその日に
私の部屋の前で待っていた
見知らぬ男の人
『なんで警察なんかに行ったの』
そう呟くように言って
恐怖で立ちすくむ私の腕を掴んだ──。
その後の記憶は途切れ途切れで
今でもハッキリ思い出せなくて
ちょうど巡回に来てくれた警官が、逃げるようにマンションから出て来た私を見つけて、追いかけて来る男を捕まえてくれた……らしい。
忘れてしまいたい記憶を消そうとする
私の中の防御力が
その時の事を思い出せないようにしてるなら
どうかずっとこのまま……。
そう願う。
その男には"ストーカー規制法"によって
私に近付かない旨の誓約書と一緒に
禁止命令が出された。
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