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やや悔しそうに九条さんが呟いた。あの日のことを思い出す。丁度九条さんから電話をもらったとき、もう私は菊池さんを招き入れ告白を断ったあとだった。逆上した彼に気を失わされ運び出された、というわけだ。
私が言葉を発する前に、九条さんが説明を続ける。
「電話で光さんに何かあったのは明白でした。私も伊藤さんも戸惑い正直パニック状態でした。警察に電話し私たちもすぐに事務所へ戻りましたが、案の定あなた方の姿はもうなかった」
「すれ違いだったんでしょうね……」
九条さんは思い出すようにやや険しい表情で前を向き話す。普段より声も僅かに低いように感じた。
「常識的に考えて菊池正樹が普段住んでるアパートに連れ帰ってる可能性は低い。ではどこに連れて行かれたのか。なんの手がかりもなくただ焦りで混乱しているところに、二つの存在が現れました」
「……え?」
九条さんがゆっくりとこちらを向く。綺麗なガラス玉のような瞳が揺れた。
「首なしと大福です」
「…………」
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