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卒業式とお泊り
卒業式に私は袴を選んだ。ぼうちゃんは白装束、ミチザネはリクルートスーツ、真紅は普段着。
ここで出会った私たち。同じ授業を受けて、美術展に行ったり、ぼうちゃんの趣味のアニメのイベントに行ったり真紅に合コンに呼ばれたり。いろんなことがあった。私の絵を三人は一度も否定しなかった。
「こうしたほうが明るくなるんじゃない?」
という提案はしてくれた。私も三人を勇気づけることができたのだろうか。四人でいつも肉を食べていた。絵を描くから、描き終わったから、いい絵を見たから。理由はなんでもよかった。
「最後も肉でしょ?」
私は言った。
「誰か予約した?」
真紅が私たちを見回す。私たちは首を振るだけ。
「どこも混んでるぞよ」
ぼうちゃんが言った。
「それに、絵麻は袴で焼肉? レンタル代高くつくよ」
ミチザネが私の袴の袖を掴む。
「これ自前。おばあちゃんのなの」
母に頼んで送ってもらった。
「だったら余計に大事にしなくちゃ。化繊の着物は洗えるらしいけど」
「そうなんだ」
「絵麻の旦那さんの店行きたいぞよ」
ぼうちゃんが手を挙げる。
「お、いいね。まだ親に会わせてないんでしょ? その前に品定めしてあげる」
真紅の言うことは一理ある。
鷲尾さんはおいしいものを作る人。だから顔とかどうでもいいけど、悪い人ってそれなりに顔に出ると思うから友達に会ってもらうのはいいかもしれない。
「連絡してみる」
『いいですよ』
の返信が早すぎて、お店が暇なのかなと勘繰ってしまった。
大学からは徒歩圏内。それでも履き慣れない草履でゆっくりになってしまう。
「うわ、かわいい外観。これ木? モルタル?」
ミチザネが店の屋根の裏をのぞき込む。ばしばし遠慮なく叩く。彫刻もそうやって触っていたから、よく怒られていた。本人としては素材が気になるらしい。
「看板はくそダサいね」
真紅がぴしゃり。私も思ってた。茶色にネイビーの文字で目立たない。配色が悪すぎる。
「お邪魔するぞよ」
ぼうちゃんが扉を開ける。
「絵麻さん、おかえり」
お店に人はいなかった。お客さんがいないだけで空気がひんやり。
「あれ? 鷲尾さん、お店は休み?」
「はい。絵麻さんの卒業祝いにケーキを焼きました。食べられない量になってしまったので友達と一緒でよかった。みなさん、どうぞ」
「きれい。鷲尾さん、ありがとう」
テーブルの上にはフルーツたっぷりのババロアケーキ。
「絵麻さんみたいにデコれなくて」
「ムースの色もきれい」
紫はブルーベリーを混ぜたのだろう。水色は?
食べるのがもったいないほど鮮やか。
「ケーキもいいけどお腹すいた」
ミチザネがぽつり。
「すぐ作ります」
「手伝います。その前に着替えます」
「いいです。絵麻さんの袴姿初めてなので、もう少し見たいです。はい、コーヒー」
どうしてそういうことをすんなり言えるのだろう。私はまだ好きとも言えていないのに。
鷲尾さんはキッチンに引っ込んだ。
「いい人そうでよかったぞよ」
とぼうちゃんが言ってくれた。
「うん。コーヒーもうまし」
鷲尾さんはいい人だ。
「あ、絵麻の絵が飾ってある」
真紅が指を指した。
「なんというか、ちょうどいいわね」
ミチザネの感想はいつもざっくりだ。
「お店の雰囲気に合ってるかな?」
「うん、いいと思う」
真紅の言葉にみんなが頷くから、やっとほっとした。
ピクルス、サラダ、ピザ、タコのアヒージョ、ポークの香草焼き。次から次へと出てきて、しかも全部おいしい。
「こんなに料理上手な人と結婚するの大変じゃない?」
ミチザネが言った。
「なんで?」
みんなで白ワインを飲んでいた。
「越えられないじゃん?」
「夫婦なんだから越える必要ないでしょ?」
真紅が言う。私も同意見。
「私も料理ができる夫がいいぞよ。先に死んでも安心」
ぼうちゃんほどは先を見越していない。
汚れた取り皿の補充、飲み物が減れば追加、鷲尾さんは気が利く。そこが好きなわけじゃない。つい、横目で見てしまう。私たちはお客さんでもないのに、きっちりいつもの帽子着用。
笑っているけれど、こうしてみんなと昼間からお酒を飲める機会なんて残りの人生で数えるほどだろう。私がこうして座っていられるのは鷲尾さんのおかげ。そのうちちゃんと好きって言おう。
夕方で友達は帰ってしまった。
「寂しい」
独り言を鷲尾さんに聞かれてしまった。食後のコーヒーまで残さないような友達に私はこれからも出会えるのだろうか。きっとない。もう心がガードしてしまうだろう。
「またすぐ会えますよ」
「真紅は、パーカーだった女の子は明日からリゾバに行っちゃうんです。リクルートスーツのミチザネも来月から就職だし」
「あの謎の白装束少女は?」
「ぼうちゃんはイラスト描いて仕事の依頼がくるらしいです。キャラクターとか車とか、すごくかわいい絵を描くんですよ」
「へえ」
鷲尾さんはいつもの仕事の格好。ストライプのシャツにエプロン。もしも私だけが来たなら、ケーキを食べてまたデートをしたのだろうか。
「洗い物、手伝いますね」
私は言った。
「いいよ、袖が汚れたら困る。コーヒー飲んじゃって」
「はい。おいしかったです、今日の全部お店のメニューじゃないですよね。私が作ったわけじゃないのに鼻高々です」
「そう、よかった」
夕方なのにもう外は真っ暗。お腹いっぱい。お酒のせいで体ぽかぽか。鷲尾さんがお皿を洗う音、シャカシャカって心地いい。着ものじゃなくて袴なのにお腹きつい。
「絵麻さん?」
起こされたのは8時前。朝ではない。
「すいません。私、うとうとしちゃって」
「気持ちよさそうだけどシワになっちゃうから」
「たぶん、もうなってます。ふわぁ」
欠伸が止まらない。酔っていると気づかないけど、木の椅子でも長く座っているとやっぱりお尻が痛いな。
「タクシー呼ぼうか? 車貸しちゃってて」
鷲尾さんが窓外を見る。
「大丈夫です」
「でも、大雨だよ」
「あら、いつの間に」
暗くて見えないが、雨の音はする。
「泊っていく?」
唐突に鷲尾さんが聞く。
「あ、いや」
「そうだよね。タクシーすぐ呼ぶ」
「あっ、でもそんなお金はもったいないので泊まります」
結婚を決めた男女が二人っきりでいたら、なにをするのだろう。私、そもそも鷲尾さんと仕事以外でどんな会話してるんだろう。
家のほうもリビングとトイレしか借りたことなくて、いきなり、
「お風呂入る?」
とか言われても。
「いえ」
「絵麻さん、夕飯は?」
「さっきまで食べていたのでお腹いっぱいです」
「そうですよね」
沈黙を嫌うのか、鷲尾さんがリビングのテレビをつける。
「鷲尾さんは夕飯どうぞ」
「うん」
「私はケーキの残りを食べようかな」
「作りすぎでしたね。絵麻さん、泊まるなら無理をせず明日食べても」
「あ、はい」
泊まったら、一緒に眠るのだろうか。そういうの、知りたかったけど絵ばかり描いていて、友達も私にはそういう会話をふらなかったから。
こういうときはスマホで検索。『お泊り』『イチャイチャ』
これは恋愛初心者の私には無理なやつ。ああ、どうしよう。
コーヒーの匂いが漂う。
「絵麻さん、夜なのでノンカフェインのコーヒーです」
「ありがとう。あるんですね、知らなかった」
「この前、お店で妊婦さんを見かけてね。おいしいものを探しているところです」
「すっきり」
帰りたいのに雨足は強くなるばかり。
「音すごいだろ? リフォームしたけど建物自体は古いんだ」
鷲尾さんが申し訳なさそうに言う。
「そうですか。新しそうだから新築かと」
「賃貸ですよ。元々、第二の人生としてこの店を始めようとした知り合いのおじさんが亡くなって、持ち主のおばあさんは老人ホームの入居が決まって困っていたから貸しに出すと聞いて飛びつきました」
「そういう巡り合わせってありますよね」
私と鷲尾さんの出会いもたぶん運命。友達ともそうだ。だから流されてみよう。
私の乏しい性の知識は外国の映画くらいで、ネグリジェ着なくちゃ。裸って、いつも服で隠しているから見たいと男の人は思うのかな。どうして女は思わないのだろう。
お風呂に入った。鷲尾さんの服を借りた。人の家のお風呂って使い勝手がわからない。Tシャツ大きいな。
時間が経ってお酒は抜けた。こういうときは酔っていたほうがいいのだろうか。テレビを見て鷲尾さんはヘラヘラ笑った。そういう顔もするんだ。
「二階は二部屋あって、僕の部屋にはベッドがあります。もう一つの部屋に布団敷く?」
鷲尾さんがこっちを見てくれない。
「一緒に寝ます」
結婚するっていうのはそういうことも乗り越えなければならない。その前にしなくちゃいけないことがあるような気がする。なんだろう。
「もう寝る? 早い?」
「鷲尾さん、朝早いですもんね。もう寝ましょうか」
「うん」
手をつないで階段をのぼった。
こんなに優しい人が私の嫌がることをするはずがない。大丈夫、大丈夫。
鷲尾さんの部屋は鷲尾さんの匂いで満たされていた。私、この部屋で眠れるのだろうか。
「苔玉?」
本棚に並んでいた。
「植物は枯らしちゃうけど苔玉は平気なんだ。相性いいみたい」
「そうですか」
「さあ、どうぞ」
ベッドはたぶんセミダブルくらい。
「お邪魔します」
男の人の部屋にしてはきれいなのだろう。散らかっていない。シーツもきれい。しっくりくる。
足は絡んじゃうものなのだろう。鷲尾さんの枕は、鷲尾さんの匂いが濃縮されている。
「絵麻さん、抱き締めていい?」
「はい」
狭いからそうするしかないのだろう。鷲尾さんがうしろから腕を回す。背中が全部、鷲尾さんに接している気がする。ぼうちゃんの家に泊まったときもこうして一緒に眠った。経験済みのはずなのに、ドキドキする。
「絵麻さん、そんなに緊張していたら眠れないよ。今日はなにもしないから」
なにもされなかったら、ずっとこのまま? 無理だ。
「してください。男の人と寝るのも初めてだから、このままじゃ眠れそうにない」
「結婚する前からいいんですか?」
「離婚は嫌だから。男の人は大事なんでしょう?」
スマホを見せると鷲尾さんは大笑い。
「『男が考える体の相性』って。絵麻さん、スマホでこんな記事読んでるの?」
「不安で」
抱き締められることが嫌じゃない。頬ずりも、おでこのキスも。
「嫌だったら言って」
どうしてこんなに薄暗い部屋なのに、布団の中なのに、私の体のいろいろがわかるのだろう。脇腹、腰、お尻。あ、そこはおっぱいだ。
「んんっ。鷲尾さん、ドキドキじゃなくてゾクゾクします」
耳が弱いみたい。
鷲尾さんがあっという間に私を裸にする。心も丸裸だ。
「かわいい。絵麻さん、触って」
導かれた手が硬い部分に押し当てられた。
「鷲尾さん、それなんですか? 体が硬化してますよ。凶器を所持してましたか?」
「女の人の裸を見たら男はこうなります」
「ならないですよ。私、バイトで裸体になりますけど、みんな真剣に絵を描いてますよ」
「裸体?」
「デッサンです。予備校とか大学で、交替でするんです」
「裸ですか?」
「当然です。布巻くときもありますけど」
「それは何人くらいに見られるんですか?」
「30人くらい。数時間動かないから息を吸うのにも気を使います」
「男の人は何割ほど?」
「男とか女とかわかりません。画家になりたい同士だと思っていますから」
裸体はバイト代も高いし、男女問わずデッサンモデルの人はいたから気にしたことがない。見るよりも描くに意識がいっているのだ。頼まれれば友達の前ではすぐに脱げた。
「もうその仕事、やめてください。結婚したらあなたの細胞は一片たりとも僕のものです」
裸の鷲尾さんに裸の私が包まれる。うしゅうしゅする。そんな単語、自分でも聞いたことがない。
「わかりました。生活費の問題がないならそうさせていただきます。ところで鷲尾さん、そこ、気になるので拝見してもいいですか?」
「いいですけど」
パンツを脱がせたら、きっちり私に向いていた。
「不思議な角度ですね」
デッサンしたいって言ったらさすがの鷲尾さんも怒るのだろうか。
「絵麻さん、そんなに凝視しないでください」
「触りますね。すごっ。あ、硬い。あ、そうでもない。あったかい」
作りたての和菓子に例えたら失礼だろうか。
「絵麻さん、そんな真顔で。あっ、そんなに強く握らないで」
「すいません。不慣れで。これでも絵を描くときに男の人の裸を見たことはあるのですが、彫刻も、この角度ではなかったですよ。だらんとしていました。もしかして鷲尾さんて、異形ですか? ごめんなさい。気にしてました?」
陰毛もこんもりしている。
「こうならないとあなたの体に挿れられない」
これが私に入るのだろうか。両手で包んでいる。
「私の体に? あ、これを私にインすることがセックスですか?」
「そうです。いいですか?」
「はい、お願いします。私もひとついいですか?」
「ん?」
「私のおっぱいどうですか?」
「大きくはないね」
「でも乳首が小さいですか? マンガとか読むとあまりに違うように思えて。普通はもっとぷっくりしてますか?」
鷲尾さんに触られると変な声出ちゃうし。
「男はそうやって好きな女の人に気持ちいい顔されるだけでぞくぞくしちゃうから」
「私も、どくどくします」
鷲尾さんが私の足を開く。どうしてこんな恥ずかしい格好をしなくちゃいけないのだろう。痛いし。
「絵麻さん、大丈夫ですか?」
「鷲尾さん、無理です」
痛いし恥ずかしい。鷲尾さんの顔が私の胸の上にあるし、お尻揉んでるし。
「形状上、もう少し辛抱していただければ」
「無理です。体がメリって言ってます。裂けます」
「大丈夫です」
大丈夫なわけない。この人、頭おかしいのかな。大体、セックスは気持ちいいからみんなしているわけで、鷲尾さん、間違ってるんじゃないかな。手順とか、したことないからわからないけど。この人に身を委ねていいのだろうか。腰を掴まれて、ちょっと浮かせられて、ほぼ身動きが取れない。
呼吸が苦しい。私、死ぬのかもしれない。
「ひぃ、ふぅ」
「その呼吸を繰り返して。そうです。もっと深く吸って、吐いて。ほら絵麻さん、全部挿りましたよ。見えますか?」
「見るものなんですか?」
「どちらでも。絵麻さん、動きますね」
「はい」
なんだろう。この温かい気持ちは。ほっとして、生ぬるくて、体が幸福に包まれている。痛いが気持ちいいに上書きされる。私が鷲尾さんで埋め尽くされている感じ。
重なって、隙間がない。菱餅の気分だ。ぺったりしている。
そういえば、私は私の体の中のことになんて興味がなかった。私のほうが異形ということはないのだろうか。今更、心配。
今、鷲尾さんのあそこが入っているのか。そんなに激しく動いて抜けちゃわないのかな。
あ、セックスってこんなふうに目が合うんだ。こんなに近いんだ。
キスって何回するのだろう。やだ、ぐちゅぐちゅ音がしてる。これが普通なのかな。
急に自分の体の奥の穴に気づいて、それはずっと私の体にあったものだけれど、知らなかったの。生理くらいしか女を感じなくて、稀に生理痛に襲われると絵が描けないから苛立ったほど。どうして急に女でよかったなんてしみじみ安堵しているのだろう。
鷲尾さんの肩にシミ発見。赤いほくろもふたつ。私、この人の肌なら舐められる。むしろ舐めたい。喉元を舐めたら、
「なにを? 絵麻さん、あっ」
と言って、放出した。申し訳なさそうにそれを拭いてくれて、素っ裸だから行動すべてが弱々しく見える。こんな鷲尾さんは初めてだ。これから、この人のことをたくさん知ってゆくのだろう。
腕枕というか、鷲尾さんの腕に包まれています。これも好き。やっと呼吸が元通り。マラソンよりは辛くなくて、火傷のように熱いのはたぶん私の心で、満たされて、目を閉じたら眠ってしまいそうなほど幸福。
「鷲尾さん、好きな人とかいなかったんですか?」
私は聞いた。
「こんなことしたあとでそれ聞く?」
「すいません」
「いませんよ。前の恋人にはこの店を出す話をしたときに捨てられて、それきり」
「そうですか、よかった」
見たこともない元カノさん、鷲尾さんを捨ててくれてありがとう。私は今、とても幸せ。あなたが鷲尾さんを捨ててくれなかったら彼は私を拾わなかったと思う。二人で眠るとこんなに温かいのね。なぜあなたはこの幸福を捨てられたの? 鷲尾さんの鼻息がかかっても眠れる。
満ち足りた気持ちで眠った。
朝、目が覚めたら結構な量の血が出ていて、たぶんセックスの刺激で生理が来ちゃっただけなのに鷲尾さんは驚いて、幾度も、
「すいません」
と謝った。
「いいえ。洗濯で落ちるかな? ハイパーな洗剤あります? 嫌なら捨てましょう。だって、私の血ですよ」
「とりあえず洗ってみましょうか」
「はい」
鷲尾さんは洗濯機のよく洗い機能を選択した。
お店があるから鷲尾さんの朝は早い。8時までに開店準備をしなくてはならない。私たちの朝食はたまごクロワッサンとコーヒー。
「おいしい。メニューにしたら?」
私の言葉にクロワッサンを作るのが面倒という顔をした。セックスをしたおかげなのか鷲尾さんのことがちょっとわかってきた。
家だとコーヒーはコーヒーメーカーさんにお任せ。鷲尾さんは店に出すコーヒーを試飲しては唸っている。
「一旦うち帰ってから手伝いに来ようかな」
私は言った。
「じゃあ送る」
「車ないんじゃ?」
「あ、嘘つきました」
「へ?」
「そういうことする人なんだって思った?」
「ちょっと」
「ごめん」
雨はやんでいた。でも、雨が降った匂いは残っていた。
青空が処女でなくなった私を見下ろす。どうってことないのだ。私が非処女になったことも、鷲尾さんの嘘も。
私は家に歩いて帰った。鷲尾さんに脱がされた下着を洗いたかった。
体がまだじんじんする。心と体って別物。好きじゃない人ともセックスができる理由がちょっとわかる。でも、そうする人とそうしない人がいたら私はそうしない側でありたい。
これから私も嘘をついてまで鷲尾さんに愛されたいと思ったりするのだろうか。おじいちゃん、どう思う? 祖父が生きていたらきっと心配をかけまいと相談はしなかっただろう。
着替えてからイーグルテイルに行くと、鷲尾さんは普段通りに働いて、いつもよりも目が合った。困ったように笑うのは直視する私のせい。
シーツはきれいになっていた。何事もなかったようになったのはシーツだけで、鷲尾さんはたまに私を抱き締めるようになった。隙あらばではなく、彼のタイミングで。前から、横から、うしろから。
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