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一応、雇い主である。
星歌は焦った。
「いやその、義弟なんですよ」
「そんなん、話聞いてりゃ分かるよ。なんでお前の弟がレジのこっち側に入ってきてノンキにくっちゃべってんのかって話」
「そ、それは……」
ぐぅの音も出ない指摘にうろたえる星歌の肩を、行人の手が触れた。
伝わるぬくもりに、彼女の背中から力が抜ける。
「従業員だからってお前って呼び方はどうかと思いますけど? それより雇用契約はきちんと結んだんですか? 契約書を見せていただきたいんですが」
翔太を見下ろす視線の冷たいこと。
とりあえず、星歌はふたりの間に割り込んだ。
「まぁまぁ、おふたり。お客さんの前ですし、ここはひとつ穏便に」
客なんて一人もいないだろと、行人。
何だよそれ、逆に嫌味かよと、翔太。
ふたりが声を荒げたときのことだった、奥の扉が開いたのは。
途端、焼き立てパンの芳しい香りが鼻孔をくすぐる。
新たに焼きあがったパンのトレイを手に、オーナーが不思議そうに三人を見つめていたのだ。
まず翔太を見やり、次いで星歌。最後に行人をじっと見つめる。
同時に行人の表情が険しくなった。
「……これはヤバイな。星歌の王子像まんまじゃないか」
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