夫婦のモヤモヤ

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夫婦のモヤモヤ

「なんとかしてくれよ」 「そんなこと私に言われても」 「じゃあ俺が言おうか?」 「や、やめてよ。気まずくなるじゃん……」 「別にいいだろ。家族なんだから──」  買い物へ向かう二人きりの車内。その中で夫の高木和也(たかぎかずや)が妻の清美(きよみ)に対して口にした、愚痴とも不満ともとれる発言。それはここにはいない、妻である清美の父、吾郎(ごろう)に向けられてのものだった。  和也は清美と結婚して婿となり、先月から清美の両親と同居するようになった。夫婦仲は良い。同居問題でありがちな、家族のルールを巡ってのいざこざもない。  小学二年生の息子、良太(りょうた)もいる。家族全員にとって、宝のような存在だ。元々借りていたアパートと清美の実家が近かったため、転校もしなくて済んだ。  しかし、その幸せそうに見える家庭の中で、和也には最近どうしても許せないことがあった。それは清美の父、吾郎の癖だ。見過ごすことのできない、二つの悪い癖がある。  一つ目は、食事中に舌を鳴らすことだ。  醤油にわさびを溶かし、箸の先端にそれをつけて舐めると聞こえてくる。  ピチャピチャピチャピチャ……ピャッ、ピャ!   良く言えば小鳥のさえずりのようでもあり、赤子の授乳のようでもあるその音は、醤油以外でも発生する避けられないイベントだ。タレと呼ばれるものが食卓に並べば必ず耳にしなくてはならない、不快な音だ。  吾郎はそうやって、醤油やタレの濃度を確認する癖がある。  もう一つは、話の脱線だ。 「今度の祝日な、近藤部長、自分の高校時代の先輩だった人だ。最近車を変えて、週末はもっぱらドライブに出かけるらしいのだが、その人と取引先の接待があるから、多分いつものスナックだと思うが、ママが歌が上手い店だ。そこに行ってくるから、晩飯はなくていい」  何が言いたいのかわかりにくい。話が着地せずに、本筋を言わずして会話が終わることもある。
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