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「もしもしー?あのな、お前マジで電話かけすぎ」
『……』
「…かなた?」
『ごめん。…球技大会、どうだった?』
「おー。ドッジ、3位だったよ。チカが活躍してさ、ほんとカッコイイの。ちなみに双子先輩んとこが下剋上して1位で…あ、お前のクラスもなんかの競技優勝してたよ。なんだっけ…」
すん、と鼻をすする音が聞こえた。え?
「かなたお前…泣いてんの?」
『んーん』
「…まさか酔ってる?」
『…んーん』
「あっそ。まぁかなたも大変だよね、芸能活動休止っつってたのにさぁ。いきなり仕事なんて」
『ちょっと、色々あって』
「…ねぇ本当に大丈夫?お前、普段の10分の1しか言葉発してない気するけど」
『依、あのさ。オレ、謝りたくて電話したんだ』
「は?」
アホみたいな量の連絡を寄越してくることについての謝罪なら、いますぐ切って態度で示して欲しいけどね?…なんて、返せないような重苦しい雰囲気の声。
『昔、オレ、依に嫌なことして泣かせた』
「…どうしたの急に」
『昔だけじゃない、今もしてるかも、ごめん、依、オレ分かんなくて…』
「え…えー…?本当、どうしたのよ」
昔から、俺を泣かせるのが生き甲斐みたいなところがあるかなたが、なんで今急にそんなこと。
かなたは、ぐずぐず泣き始めた。本当に酔っているのか、そうに違いない。この不良。舌ったらずでイマイチ要領を得ない部分もあったけどとにかく、かなたは過去に自分が俺に対して行ったことを謝りたいと言った。
そりゃあ思い当たる節はいくつもあったから、黙って聞いていた。
『ごめんね依、ごめんね…』
何があったのか知らないけど、嗚咽しながらかなたが何度もそう言うから、ちょっと困りながら「いいよ」と返す。
『やめてよ、許さないでいいんだよ』
「あー…そうなの?じゃあ俺どうすればいい?」
『どうしたってオレ依が好きで、宇宙で一番好きで、それは嘘じゃなくて』
「…知ってるけど」
『でも、それをどうやって伝えたらいいのか分かんなくなっちゃった…』
「えっと…何?アドバイス求めてる?」
愛情表現?アプローチの仕方?
俺はあんまり他人に恋をした経験がないし、何よりそれを当事者の俺に聞くのはなかなか独特だ。
「もう十分伝わってるけどな…あはは…」
『依ぃ、嫌いになんないで…』
弱気になってこうやってグズグズしてると、可愛げがあるし昔を思い出す。真逆の家庭環境。幼いながらもかなたを弱者だと、守るべき存在だと思っていた頃。…まぁ、すぐに立場は逆転したんだけど。
「なんないって。そもそもね、あれだけトラウマ植え付けられてんだから、嫌いならとっくにお前を学園から排除してるよ?兄貴の根回しで」
泣かされても、酷いことされても。それに悪意が全くなくて、お前の下手っくそな愛情表現だって知ってたから嫌いになんてなれないんだよ。
それが間違ってたとしても。意味を知ってたから。
「とにかく、嫌なことは嫌だし普通に言うから。ちゃんと直しなよ」
ぐす、と鼻をすする音のあとに『うん』と返事がある。
「でも全部抑えて我慢して溜め込むのはやめろ。いつか暴発しそうで逆に怖い…」
そうやって、多分、俺とかなたは本当の意味で和解した。
球技大会が終わった日の夕方の話だ。
ようやく通話を切って画面を見れば、通知がいくつも溜まってる。主に生徒会の面々から、どこでサボってんだ、仕事しろって内容(本当は今の時間、生徒会メンバーは球技大会の片付け作業を手伝わなければならない)。
チカからは「今日頑張ったからご褒美くれるんだろ」って来てた。
何、お前、今日すごい活躍したしやけにスパダリ感あったけど、俺そんな約束したっけ!?と思い返せば確かに昨日の朝、ふざけてそんな会話した気がする。本気にするなよな…。何要求されるんだか。
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