始動

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『さて、今度こそうまくいくといいが……』 「えぇ、そろそろ滞在分の食糧も心許なくなってきたし、この辺りで動かせるようになっておきたいわ」  今日のハルは初めて会った日に着ていた、パイロットスーツに身を包み、起動準備に入った。   「制御システム起動確認。駆動部エネルギー循環率正常。制御システムと駆動システムの情報連結、遅延なし。」 『生体データ照合クリア、パイロット『ハルモニア』認証完了だ!』 「人型機動兵器Model-Mars、始動!!」  何度目かの転倒の後に取っていた待機姿勢から立ち上がる。  コックピット内でハルモニアによって出された指示が全身を駆け巡り、俺の身体は前進を開始した。  右足、左腕、左足、右腕、重心。  まだぎこちないが、歩く為に必要な身体制御プログラムは問題なく動いている。 『やった! 動いたぞ!』 「えぇ! やったわ! よし、そしたら次よ!」 『え、次?』  ハルはおもむろに舵を切り、格納庫の扉と思しき部分の前に立つと、左足を前に、右腕は引く。  おいまさかこのポーズは…… 「せーのっ!!」  轟音と共に扉が吹っ飛ぶ…わけではなかった。少しひしゃげただけだ。 「ちぇっ……この程度かぁ」 『この程度かぁじゃねぇよ!! 何やってんだ!?』 「力試しよ。これ、こんな扉ひとつも吹き飛ばせないの?」 『いやいや重要な兵器を格納する場所の壁がそんな簡単に壊れてたまるかよ!』  全く……メンテナンスやプログラミングが出来たから理知的な性格なのかと思ってたが、とんだ脳筋だな。  というか、 『なぁ、武器とかないのか?』 「武器?」 『俺は人型機動兵器なんだろ?なら、武器ぐらいなきゃおかしくないか?さすがに殴る蹴るだけが能じゃないだろ』 「……そうね、もしかしたらあるかも」  なんだその「それがあったか」みたいな反応は?  ひとまず部屋全体を視界におさめて観察すると、この格納庫以外の部屋につながりそうなシャッターが見える。 『他の部屋があるようだし、そこに何かないか?』 「そうね、探してくる」 …  それから帰ってきたハルに曰く、近接武器と思われるモジュールが二つ、射撃武器と考えられるモジュールが一つ見つかった。  とはいえそれは一人では運べるものでもないので、 『結局、壁をぶっ壊して取り出すってわけか』 「仕方ないでしょ。トラックはともかくクレーンは一人じゃ操作できないもの」 『まぁ、コンクリートの壁一枚くらいなら、なんとかなるだろ』  ただし素手は嫌なのでせめてというわけで、何の建設資材か知らないが鉄骨を一本こうして手に持っている。 『「せーのっ』」  一度、二度、三度と、鉄骨を振り下ろし、シャッターの周りの壁を掘り広げていく。  やがて、瓦礫をどけ、匍匐すればなんとか通り抜けられそうな穴が空いたところで、中に身を滑らせて奥へと入る。  あったのは天井から吊り下げられた一挺のアサルトライフル型モジュール。壁に立てかけられていたであろうコンバットナイフ型モジュールが床に転がっている。  そして、専用の容器に入れられたおそらく武器であろう謎の形のモジュールである。 「あなたの構造上、腰の左右に一つずつの汎用ジョイントがあったから、アサルトライフルとコンバットナイフはそこに取り付けるべきね」 『取り付けはできるのか?』 「本来なら取り付け用重機を使うべきでしょうけど、ライフルは直接付け外しが寛容に出来てるみたいだし、ナイフの方は鞘に差し込んでおくだけ。多分、自分の手でできるんじゃない?」  そうあっけらかんとして彼女は俺を操作して鞘に収まった状態のコンバットナイフ型モジュールを拾った。  その時であった。 『おぉっ!?』 「どうしたの!? 何か異常!?」  頭の中に情報が流れ込んでくる。この情報源は手からだ。正確には、手に持ったコンバットナイフ型モジュールからデータを吸い上げているに近い。 『大丈夫だ、今持ったナイフのデータが流れ込んできて驚いただけ。どうやら俺の手は何かの接続端子みたいだな。』  俺の方に流れ込んできたデータをハルの方へ送るとハルの方の画面にも俺の受け取った情報がウィンドウにまとめられて表示された。 「なるほど、これは便利ね。初めて見た武器でも手に取れば使い方がわかるんだ……」 『それにこのナイフ、超高周波ブレードらしい。操作のためのモーションテンプレートファイルも入ってたから、そっちの仮想OSにインストールしておけ』 「仮想OS?」 『なんかあるらしいぞ? 制御システムのOSそのものとは違う、空っぽのOSが。  外部から取り込んだファイルやプログラムはそこに格納して解析や抽出を行うみたいだな」  別の白いウィンドウが表示され、そこに『近接戦闘用超高周波ナイフ』と言う圧縮ファイルが表示される。 「なるほど、この白いウィンドウ内が仮想OSね」  ハルがそのウィンドウに触れると、解凍の是非が問われ、解凍を実行する。  1秒ほどで解凍されたファイル内をセキュリティスキャンが行われ、悪性プログラムの検出はされないことを確認。  インストールの是非を肯定して、制御CPU内のサブウェポンαスロットに『近接戦闘用超高周波ナイフ』の操作システムが登録された。  全体を通して、情報処理にかかった時間は5秒前後だ。  俺の時代のパソコンじゃこうはいかないな。さすが軍用スパコンというべきか?  鞘のジョイントへの取り付けも、差し込んだだけで固定される簡易仕様であったためすぐに終わった。  同様の手順で、アサルトライフル型モジュールも1分もかけることなく取り付けまでこなせた。
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