After the Earthquake

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 僕は運転への集中を切らさないように注意しながらそう答えた。クロエは話すことに満足したのか、あるいは僕が聞いていないと思って諦めたのか、それ以上は何も語らなかった。結局、僕は彼女に訊きたかったことの一割も訊けていない。だけど、路肩に車を停めてゆっくりと話をしているような時間もない。時計はもう午前二時四十五分を示している。  箕面大滝の駐車場に到着したのは、午前二時五十五分だった。僕たちの車が駐車場に入ったとき、他には二トントラックが一台停まっていた。あと五分で約束の時間だというのに、あの女の姿はどこにもない。もしかすると騙されたのかもしれないと、多少の不安を抱えながらも、僕たちはそのまま時間まで車の中で待機することにした。もしも時間になっても女が姿を現さなければ、このままどこか遠くまで逃げてしまえばいい。どこまで逃げられるかはわからないけれど、少なくとも僕が賛成派に捕まらないところまで。  クロエは俯いて黙り込んでいる。彼女の緊張が、ひしひしと僕に伝わってくる。いくら同じ反対派とは言っても、彼女にとってあの女がどんな人間なのかわかるはずもない。僕だって、同じ賛成派であっても、他のチームのチーフやメンバーがどんな人間なのか全く知らない。もしかすると、賛成派の僕と一緒に現れたことで、彼女は裏切り者として何らかの処罰を受けるかもしれない。もしもそんな雰囲気が少しでも感じられれば、もちろん僕は彼女を逃がす。だけど、あの女は、敵である僕すらも無事に逃がしてくれたのだ。仲間であるクロエを無下に処罰するようなことはしないような気がする。絶対とは言い切れないけれど、僕は確信に近い感覚を持っている。  車内の時計が午前三時を示す。その瞬間、トラックの方から小さくクラクションの音が聞こえてきた。きっとそれが合図なのだろうと思った僕は、車を降りてトラックの方に向かう。クロエも車を降りて、僕の後をついて来る。すると、トラックの荷台が開いて、あの女が姿を現した。そして、あのときと同じように、女の後ろを二人の男がついて来る。女はゆっくりと僕の方に向かってくる。僕たちもゆっくりと女の方に歩いていく。だんだんと互いの距離が縮まり、三メートルくらいの距離まで近づいたとき、女が立ち止まった。 「よく来てくれたね、アタル君」  女は笑顔を浮かべて言った。
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